公益財団法人 とよなか国際交流協会

なんぢゃ・カンヂャ・言わせてもらえば

第2回 なんじゃ・カンヂャ 言わせてもらいます

皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)

前回は自己紹介もしないで、失礼しました。コラムを担当することになった、皇甫(フャンボ)康子(カンヂャ)といいます。一九五七年、 大阪市内で生まれ、育ったのは尼崎市です。と書くと、朝鮮人がたくさん住んでいる町で生まれ育ったように思われますが、日本人に囲まれて大きくなりました。同じ仲間と知り合ったのは、大学に進学してからです。それまで日本人のふりをしてきた自分を変えようと思ったのも、信頼する同胞の先輩たちに出会えたからです。十八歳になって、ようやく民族名を名乗りはじめました。
皇甫(フャンボ)という二文字の姓は韓国ではとても珍しく、親戚しかいません。日本で、韓国で、中国で、みたこともない親戚の出現に喜ぶことがたくさんあります。最近では韓国の歴史ドラマにもこの名前が登場し、親戚たちも驚いているようです。
本名を名乗って、三〇年以上になりますが、はじめての場所で名前を名乗るのは、今だに緊張します。何度も聞き返されることはもちろんですが、間違って呼ばれることも日常茶飯事です。また、「日本語上手ですね。」と声をかけられると、「在日」であることを説明しないといけません。日本の名前だけでなく、いろんな名前があって当たり前の社会にはやくなってほしいですね。
日本の名字の種類は十万を越えるといわれています。多いのは鈴木さんと佐藤さんかな?それに比べて、朝鮮の姓は種類が少なく、 二五〇種類ぐらいです。一番多いのは「金」 、二番目が「李」、三番目が「朴」、そして、「崔」「鄭」と続きます。この五姓で人口の半ばに達するというのですから驚きです。韓国で、「金さん!」と呼びかけると、たくさんの金さんが返事をします。だから、名字だけでなくフルネームで呼ぶことが一般的です。しかも、同じ金さんでも祖先が出た地域を意味する本貫(ポンガン) が違うと、まったく関係のない間柄です。
例えば、「在日」の友人に多いのが「光山金氏」です。光山という地域から出た金さんという意味です。初対面のときには、どこの金か名乗り合うこともよくあります。私のような二文字の姓は八つぐらいあるそうですが、「金」「李」「朴」なら良かったのにと名前を名乗るたびに思ったものです。
朝鮮の姓は中国姓を取り入れたので、本貫は中国にもあるようですが、ちなみに中国では、「李・張・王・陳・劉」の五姓が人口の約二割を占めているようです。また、中国姓を取り入れたもう一つの国、 ベトナムでは「阮(グエン) 」さんが多いそうです。
もう一つ日本と違うのは、女性でも死ぬまで姓が変わらないということです。でも、結婚して、生まれた子どもの姓は父親と同じです。夫に先立たれ、残された女性は子どものため、再婚もせず夫の家の人間として人生を送るということも多かったのです。
二〇〇八年一月から戸主制が廃止された韓国では、子どもに母方の姓もつけることができるようになりました。最近では母方の名字を一緒に書いた、多姓名刺を受け取ることがあります。母方姓を併記することで、男女平等を目指すという意味なのだそうです。そういえば、日本人と結婚した「在日」の友人が生まれた子どもにダブルネームを名乗らせていました。その子どもが持っている、二つの文化的背景がすぐにわかりますね。また、日本の名字で、ハングル、タイやフィリピンなどの名前を持っている子どもや大人たちもいます。名字や名前が、その人の特性や個性を表す大切なものになっています。私もたくさんの人たちに、自分の民族名や「在日」という存在を知ってもらいたいと思っています。よろしく!

皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)

1957年大阪生まれ兵庫育ちの在日朝鮮人(朝鮮人は民族の総称)。
在日女性の集まり「ミリネ」(朝鮮人従軍慰安婦問題を考える会)代表。
「家族写真をめぐる私たちの歴史-在日朝鮮人、被差別部落、アイヌ、沖縄、外国人女性」責任編集。2016年、御茶の水書房刊。
小学校講師。
家族写真を使って、個人のルーツや歴史を知り合うワークを開催している。