公益財団法人 とよなか国際交流協会

外国人相談あれこれ

第11回 DV被害者支援

吉嶋かおり(よしじま かおり)

 夫からの暴力が背景にあって、妻の家族が殺されるという事件が最近ありました。このような事件は、それほど珍しいことではないように見受けます(私がそういうニュースを記憶しているからかもしれませんが)。殺された被害者は、DV被害者である妻、子ども、その家族であったりします。あるいは、DV被害者女性が、暴力から身を守るために、あるいはひどい状況を思いつめて、夫を殺してしまうという事件もあります。このような事件を聞くたびに、何か方法はなかったか、どうすれば防げたのだろうかと考えます。
 日本では、家庭内で暴力があった場合、暴力をふるわれた人が警察に告訴しなければ、警察は夫を逮捕することはしません(「民事不介入」)。ひどい暴力があって、被害者が警察を呼んでも、告訴をしない限りは、警察は介入できないのです。でも、その場で告訴をするのはかなり大きなハードルです。「夫が反省するかも」と期待したり、「警察に捕まるのはかわいそう」と情もあり、被害者女性はその場で決断はしないことのほうが多いのです。
 センターで相談を受けてきたDV被害者女性は、みんなこのように考え、告訴する人は一人もいませんでした。DVに関する法律のある国によっては、当事者の意思に関わらず、暴力があったと判断できる時点で、警察が夫を逮捕したり、拘留したり、強制的に家から退去させるところもあります。もしこのような法律があれば、これまでにあった事件も、もしかしたら防げたのではないだろうかと思います。多くの外国人にとっては、日本の法律や制度を日ごろから理解しているわけではないので、「告訴」とはどういうことなのか、今後どうなるのか、混乱の中でその場で瞬時に判断するのは、ほとんど困難でしょう。
 DV被害者女性から相談があったときは、夫の危険度を、私自身も慎重に推測します。相談の中で語られるさまざまな暴力エピソード、夫の様子、現在の状況などを踏まえて、被害者女性や子どもらの安全がどの程度守られそうかを考えます。完全に身を隠し、夫だけでなく周りの人たちからもわからないように逃げたほうがいいと思われた女性もいれば、夫との関係をそれなりに維持するほうが、今後が安定的に進められるだろうと思われた女性もいます。この危険度をはかるのは、緊張と覚悟がいります。
 もちろん、女性自身の思いは大切です。現時点の思いや状況、そして今後の展開との両方の時間軸を視野に入れながら、一つずつ手探りで進めています。

吉嶋かおり(よしじま かおり)

外国人のための多言語相談サービス相談員。臨床心理士。2006年から担当しています。
どんな相談があるの?相談って何してるの?という声にお応えできるよう、わかりやすくお伝えできればと思ってコラムを書いています。