公益財団法人 とよなか国際交流協会

なんぢゃ・カンヂャ・言わせてもらえば

第57回 秋の空と対話

皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)

服部緑地に久々に散歩に出かけると、抜けるような青空です。紅葉にコスモスの白とピンクが混ざり合い、明るくてさわやかな秋の一日でした。子どもたちが公園で遊び、犬たちが散歩し、ジョギングする人やバーベキューをする人、植物を観察する人と、それぞれがくつろいで同じ空間にいます。ふと、こんな穏やかな場所が、急に修羅場になったらと、考えてしまうのは度重なる、地震や台風、事件のせいでしょうか。
 対話式の授業でも、子どもたちが気になるニュースとして、フィリピンの台風被害、闇サイトによる女子中学生誘拐事件、母親が幼児二人を殺害した事件等が出ました。その中から、「親はなぜ子どもを虐待したり、殺したりするのか」をみんなで話し合いたいという声が多く上がりました。子どもにとっては切実な問題です。
パスもありで、一人ひとり意見を言っていきますが、「悪い親だ」とか「無責任だ」という意見よりも、「生活が苦しくて、子どもにあたった」や「マンションで夜泣きされたら、苦情がでる。追い詰められたから」とか、「お母さん一人が頑張りすぎて、ノイローゼになった」「相談できる相手がいなかった」など、母親に温情的な意見がたくさん出てきます。次に、子どもを虐待してしまう親はどんなふうに育てられたのかという疑問がでました。「きっと、自分も親から殴られたりしていた」「愛情を受けられなかった」など、幸せでなかった生育暦を持っていたのでは、と思いを巡らせます。
 それでは、虐待をされ、愛情を受けられなかった人は、みんな子どもを虐待し、殺してしまうのかという問いを向けると、うーんと考え込んでしまいます。
 「在日」の先輩の中に、貧しさゆえに暴力を振るう親を持つ自分が、子どもを持つのは怖いという人がいました。母親が弟を産んですぐに他界し、父親一人では育てることができず、小学校まで施設で育ったという先輩もいます。とても素敵な先輩たちでしたが、自分は家庭団欒という経験がないので、失礼なことを言ったりしたりしていないかと、聞かれることがよくありました。私の両親は子煩悩でしたが、夫婦げんかが絶えず弟たちも私も結婚願望はあまりありませんでした。弟たちは子どもの頃から、もし結婚したらパートナーに絶対に手を上げないと話し合っていました。言葉だけでなく、何十年も実践している弟たちはすごいです。
 親も子どもも一番辛いのは、忌み嫌われ、孤立することです。暴力を振るってしまう親の相談相手になったり、どう育てて良いか分からない親を励ましたり、学校だけでなく地域のみんなで子どもを育てる気持ちや仕組みが必要です。すでに、実践されている地域の人たちもいて心強いです。子ども時代の辛い体験を自分の宝に変える、すばらしい人たちを紹介すると、子どもたちは、ほっとした顔をしていました。厳しい環境にあっても、自分の夢を叶えたり、人を助けたりできる人の話を聞くと、本当に元気になりますね。
 人間は出会いと意志で、自分の境遇を乗り越えられると思うのです。難しいテーマでしたが、伝聞の話を自分の言葉に直して話し、いろいろな意見を聞いて、自分の考えを言う子どもたちはすごいです。相手の立場になって考えることができる、子どもたちの柔らかい心に触れ、私も大切なことに気が付きました。問題行動をとってしまう子どもたちの中に潜む苦悩を、理解しようとしているのか。拒絶されても、寄り添う勇気があるのか。自問自答の毎日ですが、解決方法はすぐに見つからなくても、子どもたちに投げかけ、一緒に考えていけると思います。
 秋の空と対話しながら、たくさん歩き、お腹が空きました。

皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)

1957年大阪生まれ兵庫育ちの在日朝鮮人(朝鮮人は民族の総称)。
在日女性の集まり「ミリネ」(朝鮮人従軍慰安婦問題を考える会)代表。
「家族写真をめぐる私たちの歴史-在日朝鮮人、被差別部落、アイヌ、沖縄、外国人女性」責任編集。2016年、御茶の水書房刊。
小学校講師。
家族写真を使って、個人のルーツや歴史を知り合うワークを開催している。