公益財団法人 とよなか国際交流協会

なんぢゃ・カンヂャ・言わせてもらえば

第29回 フルブライトアメリカ教職員の訪問

皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)

「フルブライト」という言葉を知っていますか。私は交換留学生としてアメリカに渡ったという人のことを思い出します。年に一回、五〇名近い、教職員が日本とアメリカを交互に訪問し、交流をしていることを知ったのも最近です。今回、大阪ユネスコスクールネットワークを通じて、依頼があり、一六名のアメリカ教職員が勤務校で交流することになりました。初めての大阪での交流だそうです。
 名簿を見ると、幼稚園から高校までのアメリカ全土からの教職員たちです。こんな機会はめったにないので、子どもたち全員が交流できる企画を考えてみました。 
 昨年夏に訪問したシンガポールの学校のおもてなし、今年三月に訪問した中国の学校の歓迎振りを目の当たりにして、どんなことをすれば満足してもらえるか、アイデアを出し合いました。渡来文化の町、池田の観光案内やラーメン記念館の案内と英語版の学校紹介をつくり、袋につめました。そして、初めて絵の具を使って描いた、一年生のとうがらしの絵手紙を記念品にしました。
 六月二四日の朝、学校に到着した先生たちに池田市や学校の紹介をしました。その後、韓国、朝鮮の文化や他のアジアの展示がある、国際理解教室を見学してもらい、母国語教室やチャンゴクラブの子どもたちが、バンブーダンスや扇の舞、チャンゴの演奏を披露し歓迎しました。
 三時間目は、それぞれの学年が今まで学習してきたことを教えてあげたり、一緒に体験したりしました。一年生は、ひらがなの看板を一緒に書きました。字が読めるようになって、一番うれしいのは、看板や品書きが読めたりすることですよね。はじめて、ひらがなを書いた幼稚園の先生も大喜びでした。五年生は久々に私が習字の授業をしました。漢字の成り立ちを解説し、「太陽」という字を一緒に書きました。参加してくれた、二人の先生たちは、筆を手に苦戦。子どもたちがいろいろとアドバイスしてくれて、作品を仕上げていました。作品が出来上がると、「生まれて初めて筆で字を書いた」と興奮していました。そして、「あなたたちはこんなに小さいのに、筆を自由に操っている。信じられない。」と驚きと感心で一杯の様子でした。
  四時間目は六年生が英語で挨拶と司会をし、広島の修学旅行で学んだ平和についての発表をしました。沈んだ顔の先生たちが多く、「あれ?」と思ったのですが、「翼をください」の歌の後、全員が立って拍手をしてくれました。その後、舞台に上がってもらい、ほぼ全員が感想を言ってくれたのですが、実は、ほとんどの先生たちが泣いておられました。「皆さんから平和の大切さを学んだ。自分のクラスの子どもたちには、教えていない。とても恥ずかしい。」「私たちのおじいさんの世代がやったことで、本当に大変な思いをしている人がいる。発表を聞いていて辛かった。でも、これからは、一緒に平和について考えていきたい。」「歌も素晴らしかった。(どんな意味なのか教えてほしい)」。先生たちが感想を言う前には、六年生は「こんにちは」と一人ひとりに挨拶を返していました。そして、泣きながら自分たちの発表や歌を評価してくれる先生たちの姿に感じ入っていました。
 給食、掃除、意見交流の後、音楽堂で、吹奏楽の子どもたちの演奏を聴いてもらいました。先生たちは、「子どもたちと触れ合い、素晴らしい演奏や踊りも見せてもらい、本当にありがとう。そして、六年生から教えてもらった『平和』について、これから考えていきたいです。」とバスが出るまで、熱く感想を語ってくれました。
 今回もたくさんの発見がありました。ずっと戦争をしているアメリカで平和学習はやりにくいのだなと気づいたり、憲法九条を守り続け、平和の大切さを学んでいる日本って貴重だなと思いました。子どもたちは「ふだん着の交流」に、とても意欲的でした。出会い、ふれあい、学び合う、そんな時間をたくさんつくっていきたいです。

皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)

1957年大阪生まれ兵庫育ちの在日朝鮮人(朝鮮人は民族の総称)。
在日女性の集まり「ミリネ」(朝鮮人従軍慰安婦問題を考える会)代表。
「家族写真をめぐる私たちの歴史-在日朝鮮人、被差別部落、アイヌ、沖縄、外国人女性」責任編集。2016年、御茶の水書房刊。
小学校講師。
家族写真を使って、個人のルーツや歴史を知り合うワークを開催している。