公益財団法人 とよなか国際交流協会

なんぢゃ・カンヂャ・言わせてもらえば

第33回 1年生がつくるまち『ミニくれは』

皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)

 一年生がつくるまち、「ミニくれは」に取り組んでいます。まず、はじめに、「すてきなまちってどんなまちなのか」みんなで考えてみました。「へいわなまち(みんなえがお、なかがいい、すきなことができる)」「ごみがないまち(つぎのひとがきもちがいいから、こころがおちつくから、ごみがないとへいわになるとおもうから)」という大きなイメージが出ました。また、「しぜんがあり、虫がすむまち」「水があるまち」「おこめがたくさんあるまち」「すてねこがいないまち」「つなみやじしんがおきないまち」「おまつりがいっぱいあるまち」など、一人ひとりが一生懸命、考えを出し合いました。おうちの人や先生たちにも書いてもらい、「すてきなまち」のイメージが、どんどん、ふくらんでいきます。
 「そんな『すてきなまち』でやりたい仕事は?」と聞くと、おうちの人の仕事や、知っている仕事などが出てきました。当たり前すぎて、あまり面白くありません。「今あるまちではなく、子どもが楽しめるまちでいいんだよ。」と声を掛けると、「子どもだけで料理するレストラン」「子どもがすきなおすし屋さん」など、次々にアイデアが出てきました。では、「どうして人間は働くのか。」と問いかけると、「生活するために、お金を稼がないといけないから。」と答えてくれた子がいました。
 それではと、お金の歴史を中学生に教えてもらいました。また、今あるお金の単位、円、ウォン、元、ドル、ユーロなどの意味を知りました。みんなで考えた単位が「くれ」です。「一〇くれ」が一〇〇円ぐらいの価値ということで、設定しました。算数で「くりあがり・くりさがり」の学習をしたことが活かせるなと担任の先生たちと、ほくそ笑みました。
 「やきいもくん」というキャラクラーも決まり、準備をはじめます。みんなは、お店の準備で働いて得たお金を貯金し、となりのクラスで買い物をします。通帳も作っていました。もちろん、ルールもみんなで考えます。
 紙粘土で作った、たこ焼きや、おすしは本物みたいです。綿にトッピングすると、アイスのできあがり。赤く塗られたイチゴケーキも、美味しそうです。散髪屋さんは頭のマッサージをしてくれました。ペット屋さんもあります。ジャズの音楽に合わせて、自分で作ったダンボールのドラムを叩く子は、ネクタイに背広姿です。長生きするためのスポーツやさんには、チェギチャギや、的あてがありました。的には年齢が書いてあり、当たると寿命が加算されます。私は、最高得点の三百歳を獲得しました。なかなか、よく考えています。「ちひろ美術館」のように、自分の名前をつけた美術館では、一人で描いた絵を売っていました。気に入った絵があったので、取り置きをしてもらいました。薬屋さんは、「元気になる薬」、「やさしくなれる薬」などを売っていて、先生たちがたくさん購入していました。お客さんの質問に、すらすら答える子どもたちを見ていると、自分がやりたいことをしている、という自信が感じられます。そして、困ったときには「やきいもくん」を探します。どんなことでも、相談に乗ってくれます。
 ドイツのミュンヘン市で、三〇年前から実施されているのが、子どものまち「ミニミュンヘン」です。どんな違いがあっても、同じ市民として、まちづくりに参加する実践は、大人になって、多様な人たちが住み良いまちを考えるようになると思います。昨年の「たぶんかミニとよなか」が楽しかったので、一年生も、まちにはいろいろな人が暮らしていることや、たくさんの仕事があることに気づき、どんなまちに住みたいのか、考えることができると思いました。
 思った以上に、子どもたちの発想はすごかったです。そこに、中学生や大人の意見を取り入れ、深めることができました。ただの「お店ごっこ」ではなく、一年生が安全で住みやすいまちは、どの人にとっても「すてきなまち」なのだ、ということに気づいたようです。そして、自分の力や友達の良いところをたくさん知ることができました。売り切れたお店は大満足で、お客さんが来なかった子どもはしょげていました。現実は厳しいです。どこが良くなかったのかを考え、次回につなげていこうと、担任の先生が励ましてくれました。
 労働の喜びを知り、まちをつくるという疑似体験から学ぶことは多いです。選挙権のない私ですが、住んでいる町のリーダーがどんな人になるのか、とても気になるところです。

皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)

1957年大阪生まれ兵庫育ちの在日朝鮮人(朝鮮人は民族の総称)。
在日女性の集まり「ミリネ」(朝鮮人従軍慰安婦問題を考える会)代表。
「家族写真をめぐる私たちの歴史-在日朝鮮人、被差別部落、アイヌ、沖縄、外国人女性」責任編集。2016年、御茶の水書房刊。
小学校講師。
家族写真を使って、個人のルーツや歴史を知り合うワークを開催している。