公益財団法人 とよなか国際交流協会

外国人相談あれこれ

第27回 5年のまとめから見える今後の課題01 医療通訳

吉嶋かおり(よしじま かおり)

 前号では『多言語相談サービス5年のまとめ』を発行したことについて書きました。執筆するにあたって、5年間の相談を振り返り、様々な問題も見えてきました。今回から何回かにかけて、その課題について述べていきたいと思います。
 多言語相談サービスでは多種多様な相談が寄せられます。大体のことは対応できるのですが、現在の相談事業の体制では対応できない問題の一つが医療通訳です。
 日本語が堪能な外国人にとってさえ、診察を受け、病状や治療方針を理解することは簡単なことではありません。日本人でも、「医者が言っていることが理解できなかった」「話を聞いてくれなかった、ちゃんと診てもらえなかった」「どういう薬かわからない」などと、
ほとんどの人が感じたことがあるのではないでしょうか。そのような不安や不満は、日本語が不自由な外国人にとっては、何倍にもなります。
 これまでにもそのような相談が寄せられました。痛いし苦しいのでとりあえず病院に行ったけれど、どういう病気なのか全くわからなかったとか、入院・手術することになったようだが、どういう病名なのか知りたいとか、手術や入院の手続きをしなければならないが全く理解できないなど、相談者は困り果てていました。痛みがだんだんひどくなり、耐えられなくなって病院に行ったら、すぐに手術と言われたけれど、治療代がないから放置したままだった相談者もいました。
 逆に病院から、「今外国人の患者が来ていて、通じないので通訳してほしい」と電話がかかってきたこともありました。
 協会では、通訳や同行することができません。医療通訳は非常に高度な専門性が求められ、また、通訳が生命にも関わるため、十分な事業体制がつくれないためです。大阪では、通訳を用意している病院がありますし、医師が外国語を話せる場合もあります。また、ボランティアによる通訳体制がある地域もあります。相談者に対しては、そのような情報提供にとどまっていますが、不便で不十分な状況です。
 この問題を解決していくためには、小さい地域や団体で個別にサービスを用意するのは非効率でしょうから、大きな地域や団体で体制をつくり、広く利用できるようにすることが良いのではないかと思います。そして、通訳者はボランティアではなく、スタッフとして適正な対価が支払われるべきだと思います。通訳技術の専門性としても、保障体制上も、対価は重要な点でしょう。利用者にとっては、サービスを無償あるいは安価で受けられるようにすべきです。生活に困窮している人は少なくないからです。またサービスは、自分の地域で速やかに受けられることも大切です。
 これは、協会のような一団体で解決していくのは困難な問題です。行政サービスとして体制ができないとしても、補助金等を受けながら、堅実で安定したサービス運営が望まれます。命に関わる問題だけに、外国人が安心して暮らせるシステムづくりが必要なテーマです。

(2012年6月号より)

吉嶋かおり(よしじま かおり)

外国人のための多言語相談サービス相談員。臨床心理士。2006年から担当しています。
どんな相談があるの?相談って何してるの?という声にお応えできるよう、わかりやすくお伝えできればと思ってコラムを書いています。