公益財団法人 とよなか国際交流協会

外国人相談あれこれ

第59回  求めているのは、アドバイス?

吉嶋かおり(よしじまかおり)

 以前取材で、「どんなふうにアドバイスをしますか?」と聞かれ、返答に困りました。相談対応のイメージは的確なアドバイスなのでしょうか。
 「情報提供」はアドバイスの一つです。相談者が抱える問題に必要な情報や解決手段を提供するという意味で、アドバイスは相談者が求めるものでしょう。
 これはなかなか奥深いトピックです。それは本当に的確な情報なのか?その解決方法は相談者が選択・利用可能なのか?そもそも、それが相談者の中核的な問題なのか?そして相談者は求めているのは、「アドバイス」なのだろうか?
 Aさんは、あることに挑戦しようとしていました。しかし具体的にどういうものかは知らなかったので、日本語で書かれた資料の内容を教えてほしいと相談に来ました。私はそれを読み、説明しました(これは「情報提供」です)。でも私は、Aさんは何か引っかかっているように感じ取りました。Aさんの言葉や話すタイミング、すっきりとしていない表情や雰囲気をとらえたものです。そこで私は、「何か引っかかりがありますか?」と聞いていきました。ゆっくり、じっくりと進めていくと、Aさんが抱えている大きな問題が背後にあることが見えてきました。本当の主訴はそこにあったのです。ここで対応の方向を変える必要がありました。Aさんが自分の心と対話できるようにしていきました。その挑戦が持つAさんにとっての意味は何か。本当はどうしたいか。そして実際にどうするか。こういう対話をへて、Aさんはその挑戦ではない、別の選択をしました。スッキリとした表情で。
 Bさんの相談は、「〇〇をしたいけれど、言葉ができないので手伝ってほしい」という具体的なものでした。しかし私は違和感を持ったと同時に、Bさんの緊張感を感じました。「お手伝いできますが、どうして〇〇をしたいか教えてもらえませんか」と聞き進めていくと、それしか方法がないと思うほど追い詰められたBさんの困難が明らかになりました。でもBさんの語りにはまだ緊張感があります。固い表情です。私は、過剰に背負おうとしているBさんの生き様、そういうふうにしか生きることができなかった孤独感に近づき、寄り添えるよう、対話を進めていきました。するとBさんの目から涙があふれ、ようやく、緊張がほぐれていきました。そうしてやっと、Bさんは〇〇をしなくてもいいのだと受け止めることができ、結局、〇〇はしないという決断をして帰りました。
 どちらも、最初に求めてきた「情報提供」とは異なる展開をしたケースです。
 これを読み解いていくのが相談対応だと考えています。相談者が話した内容だけではなく、話し方や表情、雰囲気などに注意することで、本質が見えてきます。そうすることで、相談者自身が自分の心に近づき、本当のテーマが浮かび上がってきます。
 私はアドバイスを基本的に行いません。それは、こんなふうに聞き進めていくからであり、本当の答えは、相談者自身が持っているからです。

(2022年6月号より)

吉嶋かおり(よしじまかおり)

外国人のための多言語相談サービス相談員。臨床心理士。2006年から担当しています。
どんな相談があるの?相談って何してるの?という声にお応えできるよう、わかりやすくお伝えできればと思ってコラムを書いています。