公益財団法人 とよなか国際交流協会

外国人相談あれこれ

第60回  「家族滞在」という在留資格がはらむ問題

吉嶋かおり(よしじまかおり)

 外国籍の人が日本に住むためには、法律上、必ず何らかの在留資格を持たなければなりません。在留資格は、大きく二つに分かれていて、一つは仕事によって持つ資格で、仕事ごとに在留資格が違います。もう一つは、日本人との関係で持つ資格で、例えば日本人と結婚していると「配偶者等」という在留資格になります。前者は、仕事を辞めると在留資格がなくなりますが、後者は現在の関係がなくなると、その在留資格もなくなります。
 仕事で在留資格を持つ人の家族は、「家族滞在」という在留資格で日本にいます。今回はこの在留資格の人たちの困難について書きたいと思います。困難の要因は、この人たちは、仕事の在留資格を持つ人に滞在や生活が従属する点にあります。
 わかりやすくするため、夫が仕事の在留資格を持ち、妻と子が家族滞在を持つ家族という例をあげます。
 夫が仕事を辞めたり失うと、在留資格に相当する別の仕事を得られない限り、在留資格もなくなってしまいます。それはすなわち、家族の在留資格もなくなります。ですから、家族全員帰国しなければなりません。在住期間が長くなると、子どもは日本の学校で学び、生活の基盤が日本になっているにも関わらず、帰国をしなければならなくなってしまいます。(※)
 夫がいろいろな理由で仕事を失ったり、収入が大きく減ってしまった場合、妻も働き、あるいは子どもが大きければ子どものアルバイト代も含めたりして、家族全員の収入で生活を維持することは、一般的なことでしょう。でも仕事の在留資格によって滞在する家族の場合、このようなやりかたで滞在を続けることができません。なぜなら、夫の在留資格は、夫自身の仕事によって得たもので、妻・子の家族滞在の在留資格は、夫が家族を扶養するということが条件だからなのです。
 それでも、家族の関係が安定している場合は、家族で考え、選択していくことができるでしょう。問題は、家族の関係にトラブルがある場合です。
 例えば妻が夫から暴力を受けている場合。DV法により、妻や子は、安全のために保護を求めることができます。でもその後、妻が自分自身で仕事の在留資格を得られない限り、日本に滞在し続けることはできません。そして多くの場合、この状況にいる妻(配偶者)は、在留資格に結び付くような仕事を得ることが非常に困難なのです。ですから、被害者である妻は、帰国か我慢かの選択を迫られてしまいます。
 家族滞在の在留資格には、子どもの権利、そして暴力や虐待からの安全が保障されていないという問題があり、その背後には、移住者を日本はどのように受け入れようとしているのかという、国や社会の側のテーマがあります。滞在する人たちが等しく安全に暮らせるよう、考え、変えていかなければならない問題ではないでしょうか。
※状況によっては、子どもは別の在留資格を取得できる可能性があります。

(2022年10月号より)

吉嶋かおり(よしじまかおり)

外国人のための多言語相談サービス相談員。臨床心理士。2006年から担当しています。
どんな相談があるの?相談って何してるの?という声にお応えできるよう、わかりやすくお伝えできればと思ってコラムを書いています。