公益財団法人とよなか国際交流協会

なんぢゃ・カンヂャ・言わせてもらえば

第87回 「家族写真をめぐる私たちの歴史」6月刊行!

皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)

 自分のやっていることに、何の意味があるのだろうかと、年々、モチベーションを上げるのがしんどくなっています。新しいことをしたいなと思っても、なかなか思い通りにはいきません。このままでは、だめだと思い、10数年前に頓挫していた、本作りをすることにしました。
 たまたま再会した友人に話をすると、一緒にやろうということになり、在日朝鮮人女性だけでなく被差別部落出身の女性にも書いてもらうことにしました。本のテーマは、「家族写真」に写っていない私たちの個人史です。
 23年前、母が他界したときに、残された家族写真を使って表現活動ができないかと思い立ち、最初に「在日」の仲間で集まったのが2001年です。現代アーティストの力を借り、バンクーバーでの作品展が同年末に実現しました。翌年には韓国の光州ビエンナーレの世界各国に離散する朝鮮民族、コリアン・ディアスポラのコーナーに出展されます。そこでの出会いが、2004年の東京経済大学の展覧会に繋がり、その後、大阪、ソウルと発展し2010年、とよなか国際交流センターでの韓日併合100周年記念「家族写真」展開催となりました。この間、ワークショップも各地で開催し、「在日」をはじめ、被差別部落やアイヌ、沖縄、外国の女性たちや子どもたちとも交流することができました。
 ワークをすると、アイデンティティーを感じる家族写真や写っているものだけでは分からない、その人の特性など、知らなかった歴史や出来事がたくさん浮上してきました。こんなに多様な女性たちがいることを知らせるにはどうすれば良いのか悩んでいると、本にすればよいとアドバイスを受けたのですが、なかなか書き進みません。移転前のとよなか国際交流センターに通い、「家族写真」にまつわる外国人女性たちのインタビューを試みたりしたのですが、長続きせず諦めかけていました。聞かせてもらったお話はまとめていたのですが、申し訳ないです。
 思い起こせば、停滞期になると何かしなくてはと、本づくりを何度も再開していました。今回は絶対に最後までやりきるぞと、気持ちを奮い立たせました。二年前から一人ひとりの原稿を読み合わせる会を行い、意見交換しながら何度も書き直しました。参加者の質問や意見で、どんどん深まる原稿になっていきました。在日朝鮮人、被差別部落、アイヌ、沖縄、フィリピン、スリランカ、ベトナム出身の20代から70代までの女性たち24人が、「家族写真」をとおして、自分たちの歴史や表現について書き綴っています。最終校正を終えるまで、何度読んでも涙がでて、勇気が湧きました。
 「違い」を持っている人たちが、生きにくい社会だからこそ、この本の女性たちの言葉に是非、触れてほしいと思います。想像以上に大変な作業でしたが、今回、それぞれの立場に関連する歴史的な事件や出来事を年表にし、個人史もそこに加えました。年代ごとに一目でマイノリティーが置かれている状況が理解できます。年表の最後は、5月25日に、「ヘイト・スピーチ解消法」が成立したことを明記しました。市民的権利のない「在日」や日本人の仲間が闘った成果ですが、保護すべき対象が限定され、本の執筆者のほとんどが除外されています。さらなる訴えが必要です。 
さまざまなルーツを持ち、日本社会で生きる女性たちの本、「家族写真をめぐる私たちの歴史」(御茶の水書房・A5版264頁)は6月18日に刊行予定です。とよなか国際交流協会のスタッフやボランティアも2人、書いています。是非、ご一読を!

皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)

1957年大阪生まれ兵庫育ちの在日朝鮮人(朝鮮人は民族の総称)。
在日女性の集まり「ミリネ」(朝鮮人従軍慰安婦問題を考える会)代表。
「家族写真をめぐる私たちの歴史-在日朝鮮人、被差別部落、アイヌ、沖縄、外国人女性」責任編集。2016年、御茶の水書房刊。
小学校講師。
家族写真を使って、個人のルーツや歴史を知り合うワークを開催している。