第81回 外国籍教員が果たす役割
皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)
今年も10月末に、PTA主催のお祭りが学校で開催されました。舞台発表があり、ゲームや食べ物を売るお店もあります。なんと、24年も続いているそうで、私が赴任する前は教職員が中心になって、毎年、トックをふるまっていました。メニューを変えたいという声があり、韓国の春雨の和え物、雑菜(チャプチェ)を作ったり、サムゲタンに挑戦したり、バナナトロンをフィリピンのお母さんと作ったりしました。最近は私が考えた、ねぎチヂミに落ち着きましたが、ねぎのネバネバでふっくら、もちもちとした食感が子どもたちに好評です。毎回300食作るのですが、今回も16人がフル回転で焼き、3時間ほどかかりました。準備や作業は大変なのですが、お手伝いして下さる保護者の方たちと話が弾みます。美味しいからレシピが欲しいと言われたり、韓国ドラマの話をしたりと韓国の話題で盛り上がるとうれしいですね。大阪市生野区にいたという保護者が、友だちにたくさん韓国人がいることや、アッパとかオンマとか子どもが保育所で覚えて普通に使っていたと懐かしそうに話され、驚きました。釜山に住んでいたという保護者からは、釜山の素晴らしさを聞き、こんなに韓国を好きになってくれる日本人がいるのだと感激しました。
最近、日本と韓国の関係が良くないので、韓国のことが報道される度にハラハラ、ドキドキします。「在日」の後輩教員たちが、どんな気持ちで学校にいるのか、気になります。
私が担任だったとき、中国から来たお母さんにすごく喜んでもらったのですが、多数の保護者は日本語を教えられるのか、韓国のことばかりするのではと心配しているようでした。毎日、必死で教材研究をし、みんなが分かる授業を考えたり、掃除も遊びも集団で楽しくできる方法を探したりと、一日、24時間では足らない忙しさでした。それこそ、日本人以上に頑張らなくては評価されないと思い込んでいました。せっかく担任しているのに、民族的なことに触れないのも残念なので、「よくできました」のハングルの判子を押したり、学級通信に韓国語の名前をつけたりしていました。二学期になった頃、韓流ブームもあり、保護者からの要望で、参観日に親子ハングル教室をしたこともあります。このまま、隣の国に対する理解が深まり、もっと仲良くなれると信じていたのですが、最近、がっかりしたり、怖くなったりすることが多くなりました。
外国籍や外国にルーツのある教員がいると、日本だけでなく多様な価値観を知り、そのことが子どもたちの将来を豊かにします。隣の国、韓国や中国のことを知っていれば、活躍できることが増えるかもしれません。大阪生野区のコリアタウンに行けば、韓国に行かなくても、韓国朝鮮の文化を存分に楽しめます。日本が戦争中にしたことを知っていれば、昔、植民地にしたり、占領したりした国の人たちとの相互理解が深まり、一緒に仕事ができるかもしれません。「国際教育は総合的な学習の時間だけでなく、各教科においても、自国や外国の歴史・文化の理解と尊重、地球的視野と多様なものの見方、人間尊重と共に生きるという考え方、表現力・コミュニケーション能力といった国際教育の要素を意識して指導することが重要である」と、文部科学省も言っています。この大切な学習を推進していくうえで、民族名を名乗っている外国籍や外国にルーツを持つ教員の存在自体が多大な貢献をしているのではないでしょうか。
匿名の嫌がらせや差別発言に出くわすと、気持ちが折れそうになります。そんな「在日」を支えてくれるのが、日本人の同僚や、保護者です。子どもたちに日頃言っている、「困っている仲間を見過ごしにしない」という人権感覚が問われています。
秋晴れのお祭りで、列に並び、美味しそうにチヂミを頬張る子どもたちの姿にほっとさせられます。来年もチヂミが喜ばれ、コリアタウンに見学にいくことを楽しみにしてもらえるよう、国際教育を取り入れた、日々の学習を大切にしていきたいと思います。
皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)
1957年大阪生まれ兵庫育ちの在日朝鮮人(朝鮮人は民族の総称)。
在日女性の集まり「ミリネ」(朝鮮人従軍慰安婦問題を考える会)代表。
「家族写真をめぐる私たちの歴史-在日朝鮮人、被差別部落、アイヌ、沖縄、外国人女性」責任編集。2016年、御茶の水書房刊。
小学校講師。
家族写真を使って、個人のルーツや歴史を知り合うワークを開催している。