第13回 笑われても平気だよ
皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)
今年度も、三月の国際理解全校集会で一年間の学習の締めくくりを行いました。一年生から六年生まで、いろいろな国について、知ったり、体験したり、調べたりしたことを発表し合い、学びの共有をするのですが、毎回、感心させられるのが、活き活きと楽しそうに発表する子どもたちの姿です。今回は、ちょっとした出来事が起こりました。
集会のオープニングで、母国語教室の子どもたちによる、ティニクリン(バンブーダンス)の後に登場したチャンゴクラブは、韓国の民謡、「密陽(ミリャン)アリラン」を総勢、一六人で踊りました。軽快な歌に合わせて、元気良く踊るので、練習の時からやる気満々のみんなでしたが、踊りがはじまった途端、笑い声が聞こえてきました。大勢のチマ・チョゴリ姿に混じって、たった一人、パヂ・チョゴリを着て踊っている男の子を笑っているのは明かでした。
実は、音楽学習発表会で踊った、「扇の舞(プチェチュム)」の時にも笑っている子がいたので、練習前に本人に相談したのですが、「ぼくはクラブの一員なので、みんなと一緒にやりたい。笑われてもだいじょうぶ」と言ってくれたのです。この言葉を聞いた、クラブ全員の結束がかたくなり、練習に熱が入ったのは言うまでもありません。
笑いの渦が起こったのは、何と、その男の子がいる学年でした。ほとんどの子どもたちは熱心に見てくれたのですが、みんなの踊りは小さくなり、後ろに、後ろに下がっていきます。それでも、何とか最後まで踊り、チャンゴの演奏も終えました。大きな拍手をもらったのですが、元気のないみんなです。その後の、学年ごとの発表は、どれも素晴らしく、活気に溢れるものでした。
集会終了後、すぐに、男の子がいる教室に向かいました。また、からかわれるのではと、気がかりだったからです。突然、入ってきた私に、みんなが凍っています。「笑われてもかまわない」と、踊った男の子の気持ちを話すと、反省の声が出始めました。「つられて笑ってしまった」という子が多かったのですが、「かわいい踊りだったのに、何で笑うのか分からなかった」と言う子もいました。先頭を切って笑った子たちは、大勢の女の子の中にいる級友を見て、「男のくせに」と、からかう気持ちを持ったのだと思います。「本当の勇気とは何なのか、頑張っている友だちを笑うなんて、どれだけひどいことか」と話すと、みんなは真剣に聞いてくれました。
外国の文化を知り、ちがいを認める、やわらかい心が育ちつつある子どもたちなのですが、「男らしさ」を疑う余地はないようです。子どもだけでなく、民族問題ではすごい実践をしていても、女性への差別意識から解放されない人がいます。逆に、女性問題の講演や授業をする人が、民族差別については無自覚ということもあります。人権意識はしまっておくものでも、標本のように収集するものでもありません。毎日、スイッチオンにして、検証したり、更新したりしないといけません。
今まで、いろいろな差別事象に遭遇してきましたが、その時に、「おかしい」と言える勇気は、訓練しないと出てきません。理不尽なことをされた時に、泣き寝入りしないためには、仲間が必要です。友だちを笑った子どもたちは、反省し、謝罪してくれました。謝罪された男の子が、「笑われても、平気だよ」と繰り返す寛大さを、見習いたいと思います。
皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)
1957年大阪生まれ兵庫育ちの在日朝鮮人(朝鮮人は民族の総称)。
在日女性の集まり「ミリネ」(朝鮮人従軍慰安婦問題を考える会)代表。
「家族写真をめぐる私たちの歴史-在日朝鮮人、被差別部落、アイヌ、沖縄、外国人女性」責任編集。2016年、御茶の水書房刊。
小学校講師。
家族写真を使って、個人のルーツや歴史を知り合うワークを開催している。