第24回 授業でつながる幸せ
皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)
年度末を迎え、池田市内外の学校で、国際理解の授業をする機会が増えています。毎年、呼んでくれるので、子どもたちも覚えていてくれ、「ファンボ先生!久しぶり!」と声を掛けてくれます。授業の依頼を受けるのは、一年間を通じて、全学年という学校や、毎年、同じ学年で同じ時期という学校もあります。「となりの国を知る」出会いの学習から、遊びやハングル、工作、「昔と今の暮らし」や「コリアタウンの成り立ち」など、要望に合わせた授業づくりをしています。ほとんど、一年に一度しか会わない子どもたちに、喜んでもらえる授業をしなくては、と緊張しながら、やり甲斐を感じています。
今まで、反応が良かった授業を基に、新しい情報を取り入れたり、新作品を開発したりと、少しずつ刷新しているのですが、今年度は勤務校の国際理解学習も、今まで以上に充実したものになりました。私が持っている情報や考えをうまく引き出してくれた、同僚や友人、知人たちがいたからだと思います。もちろん、意見や思いが食い違うこともありましたが、「子どもに何を伝えたいのか」という原点に戻ることで、一緒に進むことができました。うれしいなと思ったのは、私のアイデアに呼応して、授業の工夫をしたり、いろいろな手だてを考えてくれたことです。みんなで授業をつくるのは、とても楽しい時間でした。有り難いなと思います。
勤務校は、いろいろな実践を試みる大切な場です。ここでの授業実践を、たくさんの子どもたちに伝えるのが、私の役目です。同じ内容の授業をしても、子どもが変わるとちがった授業になります。面白いです。配属された五年前は、担任を持てないという不平や、同じ授業ばかりという不満を持っていました。そして、「在日」である自分が、矢面に立たされるしんどさから逃げたい、という気持ちになることがありました。「民族講師」と呼ばれることに自信が持てなくて、何を教えたら良いのか悩むこともありましたが、「あなたにしかできないことが、たくさんあるでしょ!」と、叱咤激励してくれる友人がいてくれます。心強いです。
最近、授業をした学校で、多様な文化を持った友達がいると、いろいろな考えや習慣を知ることができると話をしたところ、「虫を食べる文化を持った友達がいても、僕は虫を食べることができない。」と、一生懸命考えてくれる質問がありました。日本でも昔からイナゴや蜂を食べる習慣があることを知らせ、虫を食べることができなくても、虫を食べる友達を尊重してほしいと答えると、納得してくれました。
英語の先生と一緒に、韓国語や人権の授業をすることもあります。別の学校では、キング牧師の公民権運動を紹介した後、日本国籍を持っていない外国籍住民たちの「権利と義務」について話をしました。植民地支配のせいで、日本での生活を余儀なくされた、在日朝鮮人たちが、戦後、何の相談もなく日本国籍をはく奪されたこと。納税の義務はあるのに、就職差別や入居差別を受ける実例を知らせ、外国人登録証を見せると、子どもたちは自分のことのように怒ってくれます。知らなかった事実を突きつけられても、しっかり受け止め、前に進むことができます。そんな子どもたちと触れ合うことで、日本社会への不信感が少しずつ、はがれ落ちていきます。
「知らない」ということから生まれる不安が、ちがいを認めない社会を作っているのなら、「知らせる」という大切な役割を忘れずに、精進していきたいと思います。
皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)
1957年大阪生まれ兵庫育ちの在日朝鮮人(朝鮮人は民族の総称)。
在日女性の集まり「ミリネ」(朝鮮人従軍慰安婦問題を考える会)代表。
「家族写真をめぐる私たちの歴史-在日朝鮮人、被差別部落、アイヌ、沖縄、外国人女性」責任編集。2016年、御茶の水書房刊。
小学校講師。
家族写真を使って、個人のルーツや歴史を知り合うワークを開催している。