第25回 出会いは人をつくります
皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)
二月の最後の金曜日に、とよなか国際交流センターにお邪魔しました。
五年生が「外国の人に日本の良いところを伝えよう」と、自分たちが調べたことを発表して聞いてもらうという企画です。残念ながら、あいつぐ学級閉鎖のため一クラスだけになってしまいましたが、多言語スタッフの方たちと楽しい時間を過ごすことができました。
三年生では、地域の中にある、「ラーメン記念館」とチキンラーメンを発明した安藤百福さんや、くれは姫、あやは姫の織姫伝説をはじめ、たくさん残っている渡来文化を調べて、発表しています。子どもたちは、船を造る技術や機織、猪を飼う方法、そして、チキンラーメンと、古代から現在まで、たくさんの外国の人たちが、池田の町を豊かにしてくれたことに気づきます。このような地域学習を発展させて、大阪の通天閣や電波塔としての東京タワー、日本の中の世界遺産、和菓子、世界で一番食べられている日本食など、外国の人たちに伝える、日本の良いところ、自慢できるところを調べました。当日は多言語スタッフの人たちに加え、日本語交流活動の参加者たちも発表を聞いてくれました。
緊張しながら子どもたちが発表を終えると、「世界遺産で調べたところに行ったことがあるのか?」「これはどこにあるのか?」と日本語で一生懸命、質問して下さるので、子どもたちも、分かりやすい日本語で答えています。発表をメモしながら聞いてくれる人もいて、早口で言われると聞き取れないという意見や、漢字がたくさん書いてあるが、漢字を使っている国は少ないので、ひらがなのルビがあれば良いなどの助言もしてもらいました。また、絵や写真があると、分かりやすいという指摘もありました。日本に来て、どんなことに困っていますか、という子どもたちの質問に、「学校のお知らせが読めないので、小学生の子どもに読んでもらっている。」「日本語がまだ十分に理解できないので、参観とかで、他のお母さんたちと話せない。子どもが学校でいじめられた時に、先生に話ができないのがつらい。」という切実な悩みを聞かせてもらいました。
この学年にはフィリピン人のお母さんを持つ、母国語教室の子どもがいます。この子たちも小学校に入学した頃、明日の持ち物を暗唱していたことを思い出しました。お母さんがプリントを読めないので、覚えて帰るのだと言っていました。学年の先生たちと相談して、学校から出すプリントにはできるだけ、ルビをふるようにしましたが、学校からの情報が得られない、子どもと日本語で深い話ができないという、不安感はつきまといます。さらに、家族の中で自分だけが、ちがう文化を持っているという、ストレスも加わります。
子どもたちは「外国の人たちが、こんなにたくさんいる所に行ったのは初めてで、とても良かった。」「外国の人が多くて、びっくりした。」と日本にいる外国の人たちの存在を実感することができました。また、「アドバイスを聞けたので、次の発表に活かしたいと思った。」という意見や、「展示してあった、切り絵を見て感動した。私も作ってみたい。」と強い関心を示す子もいました。今回の国際理解学習を通じて、外国の人たちに日本のことを説明するためには、自分たちがしっかり日本のことを知り、相手の国についても知る必要があることを実感したようです。
人間の性格は二割が親から受け継いだもので、八割は出会いによって形成されると何かの本で読んだことがあります。今回のような出会いが、子どもたちの心に残り、多様な視点を持って成長してくれるのではないかと思います。多言語スタッフの皆さん、ありがとうございました。
追記:この原稿を書いている最中に、東北関東大震災のニュースが流れました。数十分前には何事もなかったのに、人々の生活が根こそぎ津波に流されていく恐ろしさは、画面を通して何度も伝わってきます。さらに、原子力発電の大変な状況です。これまでにない危機的な状況に、体が強ばります。まだ、救助されていない人たち、行方不明になっている人たちの無事を願い、亡くなられた方々のご冥福を祈りたいと思います。
皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)
1957年大阪生まれ兵庫育ちの在日朝鮮人(朝鮮人は民族の総称)。
在日女性の集まり「ミリネ」(朝鮮人従軍慰安婦問題を考える会)代表。
「家族写真をめぐる私たちの歴史-在日朝鮮人、被差別部落、アイヌ、沖縄、外国人女性」責任編集。2016年、御茶の水書房刊。
小学校講師。
家族写真を使って、個人のルーツや歴史を知り合うワークを開催している。