公益財団法人とよなか国際交流協会

なんぢゃ・カンヂャ・言わせてもらえば

第27回 姿を変えて闘う女性たち

皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)

 久々に韓国ドラマに夢中になってしまいました。「成均館儒学生たちの日々」という原作小説の、「トキメキ・成均館スキャンダル」というドラマです。時代は一八世紀、文化や学術が栄えた朝鮮王朝二二代目、正祖イ・サンの時代。人材育成のために儒教を学ぶ、教育機関が成均館でした。朝鮮各地から優秀な人材を集め、正祖王が望む「新しい朝鮮」をつくるための官吏を養成する学校です。もちろん、入学試験は難しく、入ってからも厳しい試練が待ち受けています。入学資格があるのは、両班である貴族の男子のみです。そこに、儒学者だった父を亡くし、病弱な弟と母親の生活費を稼ぐため一二歳の頃から男装して代書屋の仕事をしている、主人公ユニが入学してしまいます。
 寄宿舎生活なので、女性であることを隠すのは並大抵ではありません。かつての父の教え子である師に素性を悟られ、女は駄目だと追い出されそうになった時、ユニは「男が今まで政治をして、駄目になった朝鮮なのに。」と反論します。彼女は父が幼い弟に論語を教える声を部屋の外で聞きながら、学んでいました。「女に学問は毒」と言われた時代に、学ぶ悦びを知り、自分の可能性を試したのです。この時代の女性には無理だろうと思われる、困難に立ち向かい、克服していく小気味良さが私を捕らえて離しません。
 そういえば、幼い頃、手塚治虫の漫画「リボンの騎士」をテレビで観て、虜になったことを思い出しました。王位継承をめぐって暗躍する敵に、王女だということを秘密にし、王子として生きる話でした。最後は男性のみの王位継承を撤回させ、初めての女王として即位するのも格好良いなと思ったものです。
 一九八四年に日本で公開された、バーブラ・ストライサンド主演・制作・脚本・監督の映画「愛のイエントル」も忘れられません。一九〇四年のポーランド、ユダヤ人コミュニティーに暮らす、イエントルはラビだった父から密かに、タルムードを教わり、トーラーを学びますが、父親が亡くなってしまいます。学び続けたい彼女は男装して学校に入り、最後には新天地アメリカを目指し、自分の人生を切り拓いていきます。恋人や友人とも別れ、たった一人で旅立つ彼女の勇気に感動しました。高校生の頃、「追憶」を観て、ストライサンドのファンになり、その歌声にしびれていました。彼女も今年、六九歳になりますね。
 数年前に読んだ、一九世紀末の琉球王朝を舞台にした小説、池上永一の「テンペスト」も、男装した少女、真鶴が官吏として琉球王朝の苦境を救います。分厚い上下本でしたが、あっと言う間に読んでしまいました。中国と日本の薩摩に支配されながら、外交手腕で何とか生きのびる琉球の歴史や、女性の置かれた状況などを知り、現在の沖縄をより理解することができました。
 「成均館スキャンダル」には奇想天外な内容もですが、その時代の学生たちの生活や、没落貴族の娘の行く末、論語の解釈の面白さ、絶妙な会話のやりとりなど、毎回、ハラハラドキドキ、笑ったり、涙したり、ときめいたりと本当に楽しむことができました。考えてみると、どの作品も、女性という自分を隠して男性(人間)として生きるという共通項があるのですが、「女のくせに」と言われて育った私にとっては、「在日」を隠して生きていた思春期とも重なります。
 自分では選べない、出自や性別で排除される社会では、支えになるのは学問だったり、応援してくれる人だったりしますね。学ぶ悦びは、今まで知らなかった世界に出会うことだと思います。その力で、自分の運命を変えていけるかも知れません。
 在日朝鮮人女性として生きようと決心するまでに、決心した後も、私を勇気づけてくれた本や映画、ドラマに感謝です。

皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)

1957年大阪生まれ兵庫育ちの在日朝鮮人(朝鮮人は民族の総称)。
在日女性の集まり「ミリネ」(朝鮮人従軍慰安婦問題を考える会)代表。
「家族写真をめぐる私たちの歴史-在日朝鮮人、被差別部落、アイヌ、沖縄、外国人女性」責任編集。2016年、御茶の水書房刊。
小学校講師。
家族写真を使って、個人のルーツや歴史を知り合うワークを開催している。