公益財団法人とよなか国際交流協会

なんぢゃ・カンヂャ・言わせてもらえば

第94回 多言語による進路相談会への熱い思い

皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)

外国籍、外国にルーツのある子どもにとって、日本での将来を考えたとき、国籍で排除されたり、日本語理解が不十分だったりと不安にならざるを得ない厳しい現実があります。せめて、学力、学歴があれば何とか生きていけるのではと考えるのは当然のことですが、なかなか思い通りには行きません。義務教育だけでカバーできない学力を高校などでもう少し身につけてほしい、社会に出る前に友だちを増やして欲しい、日本の生活習慣に慣れてほしいなど、いろいろな人たちの思いで、2016年度も11月5日(土)、とよなか国際交流センターで「多言語による進路相談会」が開催されました。
初めに受験校を選ぶとき①「やりたいこと」を考えてみよう②オープンキャンパスや入試説明会のときに、実際に高校に行ってみよう③授業内容やクラブについて知ろう、という説明を受けました。入試の予定や昨年度と違う点、合格者の決定方法や奨学金についての話もありました。帰国、渡日の生徒で条件が合えば時間延長や試験問題のルビ打ち、辞書の持ち込みなどの対応をしてもらえるという説明もありましたが、通訳を介してどこまで、理解できるのか大変だなと思いました。
次に、東淀川・福井・箕面東・桜塚定時制・千里の5つの府立高校の特徴について説明がありました。日本語指導や学習支援について、課外の外国人生徒たちの活動など、魅力ある高校生活が送れそうな学校ばかりでした。先輩からも、中国から来てまったく日本語が分からなかったのに、通学しやすい近隣の高校を選び、努力して入学できたという話や、ブラジル・ペルーの日系人だが、日本語ができず、小中学校ではいじめられていたが、高校では、友だちができたし、昨年からは中学校の学習の学びなおしができるようになり、本当にうれしいと嫌な思いを乗り越えて、高校での楽しい生活を語っていました。
個別相談では、受験科目や進級の条件、通学の方法など、くわしく相談することができました。高校の先生からは、「休みませんか」「まじめに学習できますか」という質問がありました。授業が分からなくても学習支援があるので、心配することはないが、欠席が多かったり、授業態度が悪かったりすると進級できないといわれ、本人も家族も納得していました。
相談会当日を迎えるまで、たくさんの人たちが多文化な子どもたちの将来を広げるためにどんな支援ができるのか、しなければいけないのか、悩み、知恵を出し合う話し合いが何度もされました。当日の反省会も含め、こんな熱い会議に参加すると、また来年も頑張ろうと力がわきます。そもそも、多言語による進路相談会は小学校や中学校の先生たちが一生懸命勉強してもなかなか日本語理解が進まない外国人や外国にルーツを持つ児童、生徒たちの将来を案じて要望し、設置されたそうです。この熱を現場の先生たちにも伝えられるよう、多言語による進路相談会設立の経緯や意義をしっかり確認していきたいと思います。
8月にベトナム人の子どもたちを対象にした、姫路の学習支援活動を見学しました。ボランティアによる長年の活動ですが、学力のある女の子に、看護学校に行って看護士免許を取得するよう指導されていました。生きていくためには当然だと思いますが、昔の「在日」と同じじゃないかと複雑な気持ちになりました。金という名札をつけていると、高齢の日本人の患者に脈を取らせてもらえなかったと、嘆く知人の姿を思い出します。どのような将来の選択をしても、困難はつきまといますが、相談できる場所があれば安心です。
 2016年は「相模原障害者施設殺傷事件」や、あり得ないリーダーが選ばれるという厳しい現実を突きつけられました。共通するのは弱者を切り捨てるという考え方です。反対に言論弾圧をし、「セウォル号事件」の遺族に寄り添わなかった、韓国の朴槿恵大統領は国民の声で弾劾されました。身近な弱者を痛めつけるのではなく、根本的な解決を求める声が必要です。2017年も、なんじゃカンヂャ言わせてもらいます。

皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)

1957年大阪生まれ兵庫育ちの在日朝鮮人(朝鮮人は民族の総称)。
在日女性の集まり「ミリネ」(朝鮮人従軍慰安婦問題を考える会)代表。
「家族写真をめぐる私たちの歴史-在日朝鮮人、被差別部落、アイヌ、沖縄、外国人女性」責任編集。2016年、御茶の水書房刊。
小学校講師。
家族写真を使って、個人のルーツや歴史を知り合うワークを開催している。