第105回 食はいのち
皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)
「子どもの貧困」と言われるようになる前から、気になっているのが、子どもたちの食事です。NHK「きょうの料理」が1957年の放送開始から60年になったそうです。番組の内容はどんな変遷をたどってきたのでしょうか。現在の番組ディレクター、矢内真由美さんのお話を聞きました。
放送開始当時の献立表を見ると、洋食や中華料理という主婦たちのあこがれの料理が並んでいます。当時は4人に1人が栄養欠陥と言われていた時代でした。フライパンで油を使う栄養料理がたくさん紹介されています。
高度経済成長期の1964年に開催された東京オリンピックの前には冷凍食品が出回り、サラダやドレッシングなど食の欧米化がすすみます。核家族化した家庭で、おせち料理などの伝統料理が伝授できなくなっていき、はじめて、つけものや正月料理がレシピ化されたのもこの頃でした。
1970年の大阪万博から経済安定成長期による「飽食の時代」がはじまります。共働きが増えた家庭にマクドナルドが上陸し、カップめんが登場します。成人病の食事について、はじめて取り上げられています。
1984年、日本人の平均寿命が世界一になったときは、同時に校内暴力や家庭内暴力が深刻化しています。「子どもの孤食」が問題視され、共働きの食事プランや「男の料理」、「和食」が人気となります。1995年の阪神淡路大震災のバブル崩壊期には、「20分で晩ごはん」やアトピーの幼児おかずが放送されています。
そして、2001年の9・11同時多発テロ事件以降から現在は、食への不安を持つ生活になります。一方で、「冬ソナ」人気で韓国料理が大人気となりました。
私は辰巳芳子さんのおせち料理に感服し、小林カツ代さんの時間をかけないで美味しくできるおかずに助けられ、栗原はるみさんのひと手間かける工夫で、グレードアップすることができました。「在日」のコウケンテツさんが登場した時には本当にうれしく、祖母や母が作っていた家庭の朝鮮料理がレシピ化されていて、誇らしかったです。この番組とテキストで一から料理を学ぶことができました。自己流のレシピもたくさん作っています。
「食はいのち」です。幼いときから身につけた食生活が、生涯の宝物になります。忙しいおとなたちに代わって、子どもたちが自分で作れるバランスのよい食事の指導や、「子ども食堂」の活動など、家庭だけでなく学校や地域での食育が必要だなと思います。
世界の料理に親しみ、食から国際人に育てる手立てもありますね。
皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)
1957年大阪生まれ兵庫育ちの在日朝鮮人(朝鮮人は民族の総称)。
在日女性の集まり「ミリネ」(朝鮮人従軍慰安婦問題を考える会)代表。
「家族写真をめぐる私たちの歴史-在日朝鮮人、被差別部落、アイヌ、沖縄、外国人女性」責任編集。2016年、御茶の水書房刊。
小学校講師。