第55回 「ヤングケアラー」の外国ルーツの子ども
吉嶋かおり(よしじまかおり)
「ヤングケアラー」の問題が社会的に認知されるようになってきました。ヤングケアラーとは、家族の介護や世話をしている18才未満の子どもを指します。
この用語を初めて目にしたとき、私は、今までずっと訴えたかった、共有して対応してもらいたかった、外国ルーツの子どもたちが抱える問題の一つが明確になり、ホッとしました。
私はこの問題に、何度も直面してきました。しかし、いつも理解してもらえませんでした。それは私が、問題を明確に訴える言葉を絞り出すことができなかったためであり、言葉を得られなかったためでもあったのだと、今、思います。
例えば、Aさん家族のことが思い出されます。外国人のAさんは二人の子どもがいるシングルマザーでした。日本人の元夫からの金銭的援助は一切得られず、日本語が十分ではないながらも一生懸命働いていました。しかしケガをしたことがきっかけで収入が激減し、生活が一気に困窮しました。相談に来たAさんは、生活保護を受けたいと思いました。そのためには、市役所に相談に行き、申請手続きをしなければなりません。しかしAさんは、日本語能力の問題から、強い不安を訴えました。それは当然の不安です。
そこで私は、Aさんの生活状況等を聞き取った資料を作成し、Aさんが住む市役所へ電話を入れました。資料を持参するので、それで対応してもらえないだろうか、何か聞き取りが必要なことがあれば、その場でこちらに電話を入れてくれれば、通訳スタッフが対応できる、ということをお願いしました。しかし担当課は受け入れませんでした。その市役所では通訳を用意できないので、通訳を連れてくるようにと言いました。「中学生の子どもが日本語ができるなら、その子に来てもらってください」と。私は強く反対しました。子どもは学校に行っていること、日本語ができるからといって、子どもにこれを負わせられないということを訴えました。しかし、担当課は全く受け入れませんでした。
こういう相談ケースは山ほどあります。日本語の上達が早い子どもたちは、様々な場面で、大変な親を手伝い、支えています。自治体だけではなく、学校の教員も、当たり前のように、子どもに通訳させている場面は何度もありました。不動産、病院、銀行など、あらゆるところが、当然のように、子どもを通訳として使っていました。
子どもたちが負う「ケア」は、もちろん、通訳だけではありません。しかし、「通訳者として使う」という点は、日本の社会の側が、通訳させられる子どもの、その負担に対して全く無自覚であり、子どもたちを搾取してきたのです。
この問題は、通訳業務に対する認識の問題が重なります。通訳職でない一般の人にとって、通訳は精神労働になることもあります。だからこそ、通訳は専門技能なのだと思います。そのことへの、社会的認識と価値の低さが、この問題の背後にあるように思います。
ともかく、「ヤングケアラー」という用語により、相談でも、子どもたちに対する搾取を防げるよう、訴えやすくなるのではないかと思います。言葉で概念化されることの意義を感じました。
(2021年2月号より)
吉嶋かおり(よしじまかおり)
外国人のための多言語相談サービス相談員。臨床心理士。2006年から担当しています。
どんな相談があるの?相談って何してるの?という声にお応えできるよう、わかりやすくお伝えできればと思ってコラムを書いています。