公益財団法人とよなか国際交流協会

外国人相談あれこれ

第57回 障害者差別解消法と外国人

吉嶋かおり(よしじまかおり)

 2016年に施行された「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」 (障害者差別解消法)が今年改正され、不当な差別的取扱いの禁止と合理的配慮が義務になりました。
不当な差別的取扱いの禁止にはこんな具体例が挙げられています。
  ◆受付の対応を拒否する。
  ◆本人を無視して、介助者や支援者などにだけ話しかける。
  ◆学校の受験や入学を拒否する。
  ◆不動産屋で、障害者向けの物件はないと言って対応しない。
 これは、在住外国人が体験していることと全く同じで、同様の相談はたびたび寄せられています。 
 合理的配慮は、「社会の中にあるバリアを取り除くための対応を必要としている」という意思表示が当事者からあったときに、可能な対応を創意工夫して応じることです。
 合理的配慮にはこんな例が挙げられています。
  ◆「自分で書くのが難しいので、代わりに書いてほしい」という要望に、問題ない書類の記入を代わりに行う。
  ◆コミュニケーションのために絵やカード、タブレットなどを使う。
 これも、日本語や文化的慣習などの「バリア」がある外国人が必要とする対応です。外国人にとっては、ふりがながあることや、わかりやすくシンプルな日本語で書かれていることは、とても助かります。
 新型コロナウィルスのワクチンの接種を希望した外国人。日本語ができなかったので予約を手伝いましたが、その接種場所から、通訳の同行を求められました。しかし通訳の手配はそれほど簡単ではないのです。二か国語ができる人材はそう多くない。通訳がその日に対応できるとは限らない。通訳の費用は?そもそもほとんど流れ作業のようにやっている接種状況で、そこまで通訳は必要なんでしょうか?
 「合理的配慮」としてこんなアイデアはどうでしょうか。問診票はすでに多言語に翻訳されていますから事前に記入できます。現地でスタッフは、タブレットなどの翻訳機能を使えば、本人確認などは可能です。何か問題があったときにどうするかは、事前に私たちと一緒に考え、準備をしておくことができます。そのことを接種場所のスタッフに連絡しておき、協力体制もできます。
 これだけの準備や設定をすることに、何か問題があるでしょうか?日本人との違いは?
 合理的配慮とは、こんなふうに、アイデアを出し合い、協力することで実現可能なのです。
 障害者差別解消法の目的は、その人らしさを認め合いながら共に生きる社会(共生社会)の実現です。これはすべての人にあてはめることができる目的でしょう。
 日本語力や習慣の違いによって生じる不利益へ注目し、 どのようにすれば外国人が必要とすることにアクセスできるか。どのようなことは「合理的配慮」ができないのか。配慮が不可能なのは、どのような理由や根拠があるのか。
 この法律の浸透が、外国人に対する対応についても発展し、こんな風に立ち止まって考えてみる、そういう変化を期待しています。

(2021年10月号より)

吉嶋かおり(よしじまかおり)

外国人のための多言語相談サービス相談員。臨床心理士。2006年から担当しています。
どんな相談があるの?相談って何してるの?という声にお応えできるよう、わかりやすくお伝えできればと思ってコラムを書いています。