第62回 入管法はみんなの問題
吉嶋かおり(よしじまかおり)
ある企業に就職したあなたは、そこがいわゆる「ブラック企業」であることに気づきました。残業代は出ないし、休みも取れないことが多くあります。上司の理不尽な怒りはいつ起きるかわからず、不安が付きまといます。どうやら社員によって待遇や対応が違っていることがわかり、やる気もどんどん失われてきました。疲れがとれず、気分が落ちたまま、楽しいとかうれしいと感じることもなくなってきて…。
残念ながら、こういう就労環境は少なくないのが日本の現状です。
こういう状況になった場合、心身の不調により休職したり、退職して別の選択を考えたりすることができます。日本人だったら。
しかし外国籍の場合、そう単純ではない場合があります。在留資格が、就労がベースになっている種類の場合、企業等での就労がその在留資格の条件になります。また、業種・職種・就労形態も具体的で細かい制限があります。体調に合わせてしばらく短時間で働くとか、軽い仕事で様子を見ていくというようなことは困難になります。興味を惹かれたり、適性に合いそうな業種が別だとわかっても、そこで働くという選択は、基本的にはできません。
体力も気力も使う仕事をしている中で、妊娠していることがわかりました。労働の軽減や休暇等は、もちろん、国籍や在留資格に関わらず利用することができます。しかし残念ながら、妊娠によって働きづらくなったり、休めないということは、国籍に関わらず実際に起こっています。こういう状況になった場合、就労の在留資格で働く外国人女性は、非常に難しい選択を迫られてしまいます。働き続けることは命の危険に関わるかもしれない。しかし退職すると在留資格を失ってしまうことになる場合があるのです。
これらは実際に、非常に多く寄せられている相談です。
ここには、日本社会がどのように外国籍の人々を見ているかが象徴的に現れています。それは、企業(雇用側)に都合のよい労働「力」は必要だけれど、「人」はいらないという価値観。そしてこれは外国人労働者だけの問題ではないということは、上の二つの例が日本人にも起きていることからわかります。背後にあるのは、「人を大切にする」という社会ではないということ。労働「力」としての効率さや収益性等が、まるで個人の能力のようにみなされ、価値づけられ、そして消費されていることです。
この記事は、全ての外国籍の人が関わる入管法と、彼/彼女らが抱えている問題は、日本人にとっても自分たちの生活と関わっているということを、どうやって伝えられるだろうと思いながら書きました。入管法の問題はいろいろありますが、今回は、「働く」という、人々にとって生きていく上でとても重要な側面についてとりあげました。入管法が、外国籍の人だけの問題ではないということを知ってもらえたらと思います。
(2023年6月号より)
吉嶋かおり(よしじまかおり)
外国人のための多言語相談サービス相談員。臨床心理士。2006年から担当しています。
どんな相談があるの?相談って何してるの?という声にお応えできるよう、わかりやすくお伝えできればと思ってコラムを書いています。