公益財団法人とよなか国際交流協会

外国人相談あれこれ

第65回 トラウマ・インフォームド・ケアの地域づくりへ

吉嶋かおり(よしじまかおり)

「トラウマ」という言葉からどんなイメージが浮かびますか?事故や災害等の大変な被害といったような大きな出来事だけでなく、日常のショックな出来事も「トラウマ」と言ったりして、広く一般的に使われる言葉になっていますね。
 アメリカで1998年に発表された研究では、子ども時代に精神的、身体的な「トラウマ」(虐待、親の離婚・病気・問題などの機能不全等)を経験した人が、成人後、様々な身体・精神の病気になる確率が高くなること、自殺率が高まること、平均寿命も短くなること、そして膨大な経済的・社会的コストがかかること等が明らかになりました(ACE研究)。
 日本でも同様の研究が行われていますし、昨年は学校ACE®研究が発表されました。学校で子どもが体験するいじめ、暴言・暴力、性被害、教員との関係等が、不登校や引きこもり、抑うつ・不安症状へ影響しているのです。
 アメリカではACE研究結果から、支援と治療に加え予防的な介入が行われるようになりました。この全体的な取り組みを「トラウマ・インフォームド・ケア(TIC)」と言います。
 これは医療や福祉などの支援者だけが行うものではなく、コミュニティ全体で推進していくことが重要です。というのもACE研究では、子ども時代に逆境体験をしたけれども、大人になってその影響を大きく受けず、比較的健康に過ごす人たちがいることも示されました。その人たちに注目した研究からわかったのは、身近に話せる・聞いてくれる人がいたこと、居場所があると感じられたこと、つまり、守られていると感じる体験があったことだったのです。
 今年3月のATOMS振り返り会(事業評価会)では、「安心」がキーワードの一つに出ていました。ボランティアの方々が、「みんなが安心して参加できることを大切にしている」と話されていました。関心を向け、尊重し、安心して活動できること、これはまさにTICの実践です!
 TICは、トラウマを経験した利用者や外国人参加者だけを対象にするものではありません。ボランティアや職員なども含めた全ての人がTICの対象であり、実践者になります。全員が安心を感じられること、全員が安心のために試行錯誤すること、これがTICの実践です。
 TICは予防・支援・治療という構成です。ボランティアや利用者の方が、「こういう気になる人がいて…」と連絡をくれることで、支援につながっています。このようなみなさんのあたたかい関心に深く感謝しています。
 私の展望として、このTICをもっと地域的に推進していくことと、在住外国人も適切な治療につながることを考えています。みなさんと一緒に実践していきたいと思っています!

吉嶋かおり(よしじまかおり)

外国人のための多言語相談サービス相談員。臨床心理士。2006年から担当しています。
どんな相談があるの?相談って何してるの?という声にお応えできるよう、わかりやすくお伝えできればと思ってコラムを書いています。