第64回 相談の場で、孤独にさせない
吉嶋かおり(よしじまかおり)
相談者は、困っていたり苦しんでいたりして、何らかの助けを求めて相談員につながります。日本語が十分でない場合は、それは通訳担当者になります。相談員(通訳)の対応に傷ついたり嫌な思いをしても、相談員は自分の状況や自分自身に対して大きな影響をもつ存在なので、率直に言って対応を修正してもらうのは、とても難しい気持ちになります。そこまでの気持ちではなくても、例えば、もっと聞きたいことがあるとか、よくわからなくて不安なままだとか、わかってもらえた気持ちになれなかったなど、モヤモヤしたり、納得がいかなかったりしても、その気持ちは伝えにくいものです。
正直に言ったら、相談員は怒るんじゃないだろうか?不愉快な気持ちになってしまうのではないか?そうしたら、もう対応してくれなくなるのではないか?
日本語が十分できるならば、適切で自分に合う他の相談員や相談機関を探せる可能性がありますが、在住外国人にはその機会はずっと少ないので、不安な気持ちはより強く感じられるでしょう。どうしても必要な支援を受け続けるためには、自分の傷つきや不満は隠しておかなければならない気持ちになってしまいます。あるいは、支援を諦めてしまうこともあるでしょう。
これは、孤独感をもたらします。
私も支援を受けたり相談する方の側にいるときは少なからず感じたことがありますし、実際に困難な状況になったこともあります。
相談者からの不満や苦情は表になりにくい理由、また、不満や苦情がないからといって相談・支援が上手くいっているとは言えないのは、相談者と相談員のこのような力関係が背景にあります。
逆に相談員という立場では、相談者から不満や苦情を受けるのは衝撃ですし、恥の気持ちに圧倒されそうになります。この強烈な感情を避けるために相談員がやってしまいがちなのは、「もう対応できません」と支援を切ってしまうか、謝罪のつもりで言い訳を並べてしまうか、あるいは、相談者に問題があるとみなして自分を正当化することです。どれも、相談員のほうがパワーを持っているからこそできることで、これをされたら、相談者はなすすべがありません。
モヤモヤや傷つきなどの気持ちは、誰かに気づいてもらうこと、理解されることを、いつも求めています。それは、人とつながりたいという望み。
「コミュニケーションの恐怖から自由になるには、言い返せる関係をつくれるかどうかにかかっている。誰かが自分を傷つけたときに、『そのことばで私は傷つく』と言えるかどうか。逆に、そう言われたときに、『そうなんだ。ごめんなさい』と返せるかどうか。」(「コミュニケーション断念のすすめ」信田さよ子、亜紀書房)
「言い返せる」雰囲気や関係は、相談員が作らなければなりません。不満や苦情も言ってもらえるような関係ができていること。他に言えるような窓口があること。相談者が伝えてくれたら、「言ってくれてありがとう。そしてごめんなさい」と言えること。
こういうやりとりを通して、相談者の中にあるモヤモヤや傷つきにこそ、つながっていきたいと思っています。
相談者を、相談の中で孤立させないために。
吉嶋かおり(よしじまかおり)
外国人のための多言語相談サービス相談員。臨床心理士。2006年から担当しています。
どんな相談があるの?相談って何してるの?という声にお応えできるよう、わかりやすくお伝えできればと思ってコラムを書いています。