第66回 この就労支援は「支援」なのか?
吉嶋かおり(よしじまかおり)
Aさんは日本語で仕事を行うことにほとんど問題がないほど高い日本語力を持っていますが、フルタイムで仕事を行うのは難しい心身の問題を抱えてきました。しかし所持金は底をつき、すぐに収入を得なければなりません。
Bさんの家庭はギリギリの経済状況のため、今より少しでも収入が増える転職を希望しています。Bさんは「キャリア」となるほどの職歴はなく、日常会話も難しいぐらいの日本語力です。
Cさんはある専門性を持っていますが、転職活動をすることもままならないほど現在の勤務状況に問題がありました。収入も多くないため、厳しい生活状況が続き、精神的に参っています。
Aさん、Bさん、Cさんの在留資格や来日経緯は異なっていますが、共通するのは、将来の展望を持つことが厳しくなっているという点です。このような相談の背景には、経済的困窮、心身の健康問題、日本語能力、在留資格による就労制限(在留資格によっては就労できる仕事や時間の制限が設けられています)などがあります。これらが複合し、「身動きがとれない」状況にいる人が多くいます。
猶予や余裕を持つことができない中では、すぐに収入に結び付くような就労を目指さなければならなくなります。そのニーズに対して行われる中心的な支援は企業への就職支援です。必要な日本語力を身につける、履歴書の書き方を支援する、日本での働き方や面接のマナーを知らせる…。ある程度「順応」できることで、仕事は確かに得やすくなります。でもこのような支援に、私は疑問も感じています。
次の仕事がとりあえず見つかったとして、それは希望につながるのだろうか?今抱える問題が解決する方向へと進むのだろうか?
現在の労働状況は、日本人も含めて多くの人にとって厳しく、将来を描きにくいものです。少しでも良い仕事を得ようとするなら、個人の「能力」を際限なく求められ、すべて個人の努力次第、自己責任と見なされてしまう傾向が強くなってきています。向上や効率を求め続けられる中、労働者も消費されているように思えてなりません。
相談対応の結果、多くの相談者が低賃金で非正規の仕事に就きます。このような支援は、労働者を搾取するような現在の経済社会を維持することではないか、というのが私の疑問です。現実的な選択肢がほとんどない上に、短期的に収入が必要な状況にいる相談者に対して、「とにかく就職」は何よりのニーズでしょうし、他の方向性が見いだせていない中で、そのニーズに対応しているだけ、というのが実情です。
しかし、現在の問題を維持・強化してしまうような支援に疑問符は付けておきたいと思います。このままで良いとは思えません。どうすればよいか、何か方法はないか、お知恵をぜひお寄せください。
吉嶋かおり(よしじまかおり)
外国人のための多言語相談サービス相談員。臨床心理士。2006年から担当しています。
どんな相談があるの?相談って何してるの?という声にお応えできるよう、わかりやすくお伝えできればと思ってコラムを書いています。