第67回 フリガナの困惑
吉嶋かおり(よしじまかおり)
漢字に複数の読み方があるため、名前に「読み」があるというのは日本語名の特徴です。名前の記入では「フリガナ」も当然のように記入欄がありますが、これが外国人にとってはいろいろと困った事態をもたらします。
アルファベットを用いない言語の国でも、パスポートにはアルファベット表記があり、在留カードに記載されている名前はそのアルファベット表記のみです。そこには「読み」は当然ながらありません。日本に住み、さまざまな手続きをするときに初めて「読み」が求められるので、アルファベット表記をカタカナ読みにします。しかしそれは、アルファベットによる音とも、元々の言語での音とも異なっているのは当然です。日本語文字の音にはない音が世界の言語にはたくさんありますから。
そういう無理矢理な「読み」を、日本ではあらゆる名前記入の時に「フリガナ」として求められます。フリガナはパスポートにも在留カードにも関係ないので、求められるまま「読み(フリガナ)」を新たにつくることになります。すると、銀行口座、健康保険証、光熱水費の契約者名などのカタカナ表記の名前がそれぞれ違っているということがよく起きています。
日本人と結婚した人の場合は、日本人配偶者の戸籍にカタカナで名前が記載されるのですが、それでさえアルファベット読みとも違っていたり、姓・名の区別が間違っているという人もいます(これは日本人配偶者が婚姻届を提出する際に本人に十分確認しないままカタカナ記載をしたためです)。
このようなフリガナの混乱によって困るのが、本人確認です。外国人名にとってフリガナは本来の名前とは無関係なものですが、フリガナが個人を識別する重要な情報として日本では扱われています(※)。例えば各種手当の申請の時に、本人確認書類と振込先口座の名前(フリガナ)が違っていて、受付されないということが起きます。
さらに外国人を困惑させるのが、オンライン申請時の、半角カタカナでのフリガナ入力です。データ処理上、フリガナが半角でないとエラーになる場合があります。文字の半角・全角は日本語入力特有だそうで、外国人にとって、半角と全角のカタカナの違いを区別することや、デバイスによっては変換自体が大変だったりします。
このような混乱・困難の解決アイデアとしては、パスポートと同じアルファベット表記もフリガナとして選択できるようにするとか、外国人名の場合はフリガナ記入・入力を求めないなどが考えられます。
フリガナが必要なのは、申請や手続きを受け取る側の作業上の理由。行政や企業などが、外国人住民の存在を前提としたシステムへ柔軟に対応していってもらえたら、利用者はよりスムーズに進められるはずです。
※これまでも日本人名のフリガナも公証されたものではありませんでしたが、戸籍法改正で今年からフリガナが戸籍に登録されるようになります。
吉嶋かおり(よしじまかおり)
外国人のための多言語相談サービス相談員。臨床心理士。2006年から担当しています。
どんな相談があるの?相談って何してるの?という声にお応えできるよう、わかりやすくお伝えできればと思ってコラムを書いています。