第69階 緊急避妊薬:切実に必要な人が利用できるのか?
吉嶋かおり(よしじまかおり)
緊急避妊薬(アフターピル)が薬局でも販売される見通しがたちました。現在は医師による診断と処方箋が必要ですが、今後、研修を受けた薬剤師の面前での服用を条件に、薬局での販売が正式に認められます。
技能実習生として来日したベトナム人女性が自宅で出産、死産だった双子の赤ちゃんを、そのまま部屋に置いていたことで「死体遺棄罪」として逮捕されたという事件が2021年にありました。この事件は、最高裁が、有罪とした地裁と高裁判決を破棄し、無罪となっています。
とよなか国際交流協会へは、レイプや、妊娠がわかった途端に交際相手と連絡が取れなくなったという相談があります。
ベトナム人技能実習生の逮捕の事件のころ、遠方からの相談がありました。地方で働く技能実習生の女性でした。彼女の相談は、「緊急避妊薬をネットで買いたいのでサポートしてほしい」でした。なぜなら彼女の国では、ネットでもコンビニでも買えるから。「先進国」である日本でも当然購入できると思ったけれど、日本語のウェブサイトを利用できなかったので、相談を寄せてきたのです。
当時は受診と処方箋が必要でした。そのことを伝えると、驚き、困惑していました。一方私は、日本における女性のリプロダクティブ・ヘルス・ライツ(性と生殖に関する健康と権利)の遅れに、とてもやるせない気持ちになったのを覚えています。WHO(世界保健機関)は、緊急避妊薬は、誰もが安価で手に入りやすくする必要がある薬として指定していますが、そのころ日本では医師の診察や処方箋が必要でした。しかも薬は他国に比べ非常に高価でした。
相談者は地方に住み、近辺には薬局も病院もありませんでした。こちらでも調べてみましたが、交通機関を使わないと病院へは行けない場所でした。日本語がほとんどわからないこの女性が、休みをとり、交通を使い、病院までたどり着き、日本語で受付を済ませて、受診し、高価な診察代と薬代を払うこと、このどれもが不可能でした。
ネットで買えたなら。こちらから送ってあげられたなら。
何もできることがなく、その事実と、とよなか国際交流協会よりはまだ近くの相談可能な団体についての情報と、そして残念な気持ちを伝えることしかできませんでした。
緊急避妊薬が薬局で手に入ることになったとはいえ、本当に必要な全ての女性が、薬局までたどり着けるのか、そこで薬剤師と応答できるのか、薬代を払えるのか、まだ懸念は残っています。
安全に利用することと入手のしやすさは両立できるはずです。リプロダクティブ・ヘルス・ライツの実装を求めます。
吉嶋かおり(よしじまかおり)
外国人のための多言語相談サービス相談員。臨床心理士。2006年から担当しています。
どんな相談があるの?相談って何してるの?という声にお応えできるよう、わかりやすくお伝えできればと思ってコラムを書いています。