第2回 在留資格(ビザ)の問題01
吉嶋かおり(よしじま かおり)
Aさんの日本人夫は、結婚以来、たびたびAさんに暴力をふるいました。あまりにつらくて、Aさんは夫から逃げました。家を出て、友だちを頼って、そこでしばらく生活しました。お金がないので、Aさんは生活のため、帰国費用のために仕事をしました。
Aさんは「日本人の配偶者等」という在留資格を持っていました。在留期限が迫りましたが、更新の手続きはできませんでした。「配偶者」の在留資格を得るためには、夫に関する資料を提出し、夫に身元保証人になってもらわなければなりません。夫に連絡をしてそれらを頼むことは、恐ろしくてできなかったのです。
Aさんの在留資格の期限は切れました。不安に思いながらも、Aさんは仕事をして生活を続けるしか方法がありませんでした。その後、Aさんは別の日本人男性と出会い、二人は一緒に暮らし始めました。
しばらくして、Aさんはどうにもならない身体の不調で病院に行きました。緊急に手術が必要な重い病気でした。Aさんはオーバーステイで健康保険証を持っていなかったので、病院に行かず、ぎりぎりまで我慢していたのでした。病院からは、保険なく治療を続けるのは難しいと言われました。
同居男性は、Aさんと結婚する意志がありました。まずはAさんと男性が婚姻届を出し、それから「在留特別許可」を求めました。これは、個々の事情を考慮して、特別に在留を許可してもらう手続きです。また同時に、健康保険の手続きも進めました。Aさんは手術をし、何とか命を取りとめることができました。1年ほど後、在留許可が得られ、長い年月をかけてようやく安心して暮らすことができるようになりました。Aさんの問題では、様々な手続きを慎重に、そして至急に進めなければなりません。相談員はAさんと男性に細かくアドバイスするだけでなく、関係機関に連絡し、スムーズに対応してもらえるよう強く求める対応もしました。
Aさんの問題は何とか解決することができましたが、どうにもならず、帰国せざるを得ない場合もあります。このことについては次月でお話しましょう。【ケースは加工したものです。】
吉嶋かおり(よしじま かおり)
外国人のための多言語相談サービス相談員。臨床心理士。2006年から担当しています。
どんな相談があるの?相談って何してるの?という声にお応えできるよう、わかりやすくお伝えできればと思ってコラムを書いています。