第5回 国際結婚カップルの問題02
吉嶋かおり(よしじま かおり)
前月は、国際結婚カップルの問題について書きました。どんな夫婦でも生活習慣や価値観の違いはあり、それをすり合わせたり、妥協したりしながら、二人の関係をつくっていくものです。ですが、日本人夫・外国人妻の夫婦の問題によく見られるのは、日本人夫は要求する、外国人妻は我慢したり頑張る、という構図です。
外国人妻は、日本語がわかればもっと自分の気持ちをわかってもらえるだろうとか、日本のやり方がわかれば馬鹿にされないだろうと考えます。日本語ができれば、習慣に慣れれば、情報を知っていれば、夫や夫の両親の求めることがちゃんとできれば…。でもそれは簡単なことではありません。自信がなくなったり、不安や焦りが強まったり、孤独や無力感を感じたりします。日本語がとても苦手な様子の外国人のお母さんが、小さな子どもに「頑張って」と何度も言っていたことがありました。このお母さんこそが「頑張る」ことを日本語で求められてきたのでしょう。
問題を抱え、苦労をし、悩みを訴える彼女達に対して相談では「エンパワメント(=奪われていた力を取り戻す)」を大切に考えています。「エンパワメント」を意識しないで、日本語を教えてあげたり、情報を提供したり、勉強会をするというようなことは、彼女達の力をさらに奪う方向に行ってしまうかもしれません。彼女達はそうでなくても「もっともっと」ということを求められているのですから彼女達にさらなる努力をするよう求めてしまう可能性も含んでいるのです。
そこで相談では、これまでの苦労をねぎらったり、努力を認めたりする言葉を伝えるようにしています。彼女らはたいてい、夫から認めてもらったり尊重してもらうことが少ないからです。そして、彼女達自身が気づかなかったり、忘れてしまった自分の内なる力にもう一度自分で気づき、触れ、それを自分で大切にしていくプロセスを大事にしています。相談におけるエンパワメントとは、真の自分を知ることだと言えるかもしれません。自分を知るというのは、そのままでいられること、自分を大切にし、自分に責任を持つことでもあります。それがあってこそ、日本語の勉強や日本文化の習慣に沿うことの意味が本当に彼女達自身のものになるでしょう。
自分の内なる力が感じられるようになると夫との関係にも変化が起こります。より対等な関係になる場合もあれば、離婚に至ることもあります。どういう結果になるかに関わらず、自分の内なる力を知った人は、「自分の人生を生きている」ということがこちらにもよく伝わってくるようになります。
吉嶋かおり(よしじま かおり)
外国人のための多言語相談サービス相談員。臨床心理士。2006年から担当しています。
どんな相談があるの?相談って何してるの?という声にお応えできるよう、わかりやすくお伝えできればと思ってコラムを書いています。