第8回 支援にまつわるいろいろ01
吉嶋かおり(よしじま かおり)
何年も前のことですが、私はカナダの都市トロントで、「女性への暴力」という連続セミナーに参加しました。このセミナーは大学が主催したもので、支援者を対象にした実践的研修会でした。参加者は各回30~50人ぐらいでしたが、世界会議のような参加者層でした。一見して人種も宗教も多様な人たちであるのがわかりました。ムスリムのベールをかぶっている人、カトリック系、中国系、インド系、黒人(アフリカ系)、白人、ラテン系…、こういう羅列のしかたは変だとはわかっていますが、どう表わしたらいいか、とにかく多様でした。トロントは世界中からの移民が集まる都市で、当時、移民一世が都市人口の半分以上になったというニュースを、街の人が喜んで語っていたのが印象に残っています。
多民族都市らしく、トロントで活動する支援団体も多種多様で、DV被害を受けた人も自分の母語・母文化による支援を受けることができます。日本人にもJSSという団体があり、DVも含め様々な支援活動を行っています。支援者はソーシャルワークの修士号と資格を持った素敵な日本人でした(当時)。他にも、日本語でサポートが可能な団体がありました。同じく多民族国家のアメリカでは、日本人のDV被害者向けに、シェルターには畳の部屋と布団、そして和食を用意しているという論文を読んだことがあります。外国人の被害者が、自分の言葉で話をしたり、暴力から逃れた後に、ゆっくり安心してすごせるのは何よりでしょう。日本のシェルターでは、外国人被害者に対するこのような対応はごくごく限られています。
このセミナーでは、参加者の議論がとても活発でした。一つの議論は、「白人のDV被害者女性が黒人の支援者に対して、『黒人でない人に担当してもらいたい』と言ったら、どのように対応すべきか」というものでした。このテーマは大議論になりました。人種差別としてきちんと主張すべきだ、疲れ果てた被害者が安心することが優先されるべきではないか、複数で当たってはどうかなど、さまざまな意見が出されました。みなさんはどのように考えますか?
この議論に「結論」は出ませんでした。しかし、議論をするというプロセスこそがとても大事だと思いました。もしこのようなことが起きたとき、これはその被害者の個別の問題であり、その支援者団体の問題であり、そしてすべての人々の問題でもあります。
このような議論が出されるのは、多文化・多民族の支援者が活躍しているからこそだと思いました。前号で、将来は多くの外国人支援者が活躍していってもらいたいと書きましたが、例え外国人支援者がいなくても、このようなテーマは支援において重要です。多様な背景を尊重した支援とは何か、相談者と支援者の間にどのような問題があるか、明確に答えになりにくいテーマを心にとどめ、いつも反芻しながらやっていきたいと思っています。
吉嶋かおり(よしじま かおり)
外国人のための多言語相談サービス相談員。臨床心理士。2006年から担当しています。
どんな相談があるの?相談って何してるの?という声にお応えできるよう、わかりやすくお伝えできればと思ってコラムを書いています。