第15回 日本での子育て01
吉嶋かおり(よしじま かおり)
子どもと親との関係には、文化的な背景があります。子育てのしかたも、国や地域、文化によってさまざまですし、価値観も異なります。国際結婚の家族、あるいは、日本に住む外国人の家族は、日本の子育て(養育環境や価値観)と自分のそれとの間で、ぶつかったり、悩んだり、興味深い発見を日々経験することになります。
このことは、場合によっては大きな問題になることもあります。
Aさんは日本人夫との離婚を決意し、子どもは自分が育てようと考えました。まずは子どもとともに家を出て、仕事を見つけ、小さい子どもは母国の両親の元に預けました。そして、離婚や仕事など、家庭環境が落ち着いてから再び子どもと暮らしたいと考えました。一方、夫も親権を求めたので、親権は裁判所で判断されることになりました。裁判所の調査官が両親それぞれの環境を調査し、子どもにとって適切な親を親権者として選びます。調査官は、Aさん母子関係の安定に疑問を持ちました。日本では、母子が実際に一緒にいることに、より大きな意味づけがなされる傾向があります。しかしAさんにとって、子どもを母国の親に預けることは、子どものためであり、それで親子関係が薄くなってしまうとは考えもしませんでした。こういうことは母国ではごく普通でしたし、それが問題でも何でもなかったからです。
母子(父子)の密着度と情緒的つながりは文化的に多様です。Aさんの国に限らず、他の国でも、日本との違いを感じることはよくあります。文化的な違いを調査官に理解してもらったり、Aさん自身も日本での一般的なとらえられ方を理解しなければ、子どもの親権決定は家族全員にとって不本意な結果に終わってしまうかもしれません。このように、子育ての文化的な違いが、将来にわたって決定的な影響を及ぼしてしまうことが、法制度ではあります。
Bさんの子どもは、食事の支度、掃除や洗濯、買い物など、家事をよくやっていました。Bさんにとって子どもが家事をするのは当然でした。家族は皆で協力して暮らすのが、Bさんの母国では当たり前のことだからです。ある日Bさんは先生から、子どもの遅刻や成績が下がっていることの理由として、家事をやらせすぎだということ、そういうBさんは「良い母親」ではないと言われました。Bさんは先生の言葉にとても腹を立てました。先生はきっと、子どもの学業低下を心配したのでしょうが、Bさんにとっては家族が協力することはとても大切なことで、決して非難されることではないからです。
これもAさんと同様、先生もBさんも子育てについての価値観の違いをお互いに理解しなければ、誤解のまま溝が深まってしまいます。それは結果的に子どもにとって影響を及ぼします。
相談では、このような誤解を、一つひとつほどいていくことも行っています。
吉嶋かおり(よしじま かおり)
外国人のための多言語相談サービス相談員。臨床心理士。2006年から担当しています。
どんな相談があるの?相談って何してるの?という声にお応えできるよう、わかりやすくお伝えできればと思ってコラムを書いています。