第32回 外国人の子どもの発達障害
吉嶋かおり(よしじま かおり)
先月号の「おしらせ」で、『UNLEARN学びほぐしセミナー』で実施した「ある小児科医が診た『発達障害』」についての報告を載せました。これは、相談の中から出てきたテーマで、スタッフやボランティアが発達障害について学ぶ機会を設けようということで企画したものでした。関心が大きく、残念ながらお断りせざるをえないほどのお申込みがあり、たくさんの方に参加していただきました。
発達障害にはいくつかのカテゴリーがありますが、その中の広汎性発達障害は、コミュニケーションや社会性において特徴があります。たとえば、こだわりが強かったり、自分のことばかり話しているようだったり、人とあまり関わらなかったりといった様子が見られます。「なんかちょっと変わった子だな」と思われることが多いようです。しかしこのようなことは、外国人の子どもにも見られることがあります。文化の違いで、他の子どもたちとは違う行動や考え方をしたり、外国語なので言葉が理解できなかったり、孤立していたりするのは、よく見られる様子です。なので、発達障害の疑いがある外国人の子どもの場合、それが発達障害なのか、多文化な背景によるものなのかの区別がつきにくいことがあります。
相談では、これまで、発達障害をもつ外国人の子どもについての悩みや問題が寄せられたことがありました。発達障害の子どもは、いじめにあったり巻き込まれたりすることがあるのですが、それが外国人差別の様相もあるので、アイデンティティの問題もからみ、深刻で、学校とのやりとりも難しい問題が多くありました。発達障害の判定自体で、外国人差別だと憤る父母と、子どもの学校等関係者とのあつれきもありました。逆に、学校側が発達障害の疑いを見抜けず、多文化な背景を原因と考え続けて、子どもの問題が一向に改善しないままだったこともありました。あるいは、判定があるものの、保護者が十分な情報や支援を受けられないために、子どももまた支援を受けることがない状態で、保護者は不安に思い、子どもは家庭や学校生活でいろいろな問題が生じているケースもありました。
外国人の子どもの発達障害においては、まず、判定上の問題があります。さらに、子どもが、多文化な背景にも配慮された支援を受けることは、非常に難しいのが現状です。保護者もまた、多言語で、文化的配慮のもとに、子どもへの対応についての相談ができるところがありません。
この領域では、研究や実践がまだ十分なされておらず、情報もあまりありません。多文化な背景を持つ子どもは、クラスに1人以上の割合で存在します。そして発達障害の子どもは、5~10%、もしくはそれ以上と言われています。多文化な背景を持つ、発達障害の子どもの数も、大きいであろうと考えられます。
相談では、情報提供のほか、保護者の悩みを聴き、必要であれば、今起こっている問題を解決するお手伝いをします。しかしやはり、専門機関での適切な対応が待たれるところです。
(2013年4月号より)
吉嶋かおり(よしじま かおり)
外国人のための多言語相談サービス相談員。臨床心理士。2006年から担当しています。
どんな相談があるの?相談って何してるの?という声にお応えできるよう、わかりやすくお伝えできればと思ってコラムを書いています。