公益財団法人とよなか国際交流協会

外国人相談あれこれ

第34回 日本のトラフィッキング

吉嶋かおり(よしじま かおり)

 トラフィッキングという言葉を聞いたことがありますか?トラフィッキングは、人身取引のことで、暴力、脅迫、誘拐、詐欺などの強制的な手段により、人を別の国や場所に移動させ、売春や強制的な労働をさせて搾取することをいいます。一般的に、貧しい国・地域に住む人が、それよりも裕福な国・地域に移動させられます。日本は、主要な受け入れ国の一つとされていますが、トラフィッキングは組織的に、水面下で行われることが多く、正確な被害実態はわかっていません。2012年に法務省が保護した被害者は9名でした。
 ここでも、トラフィッキングではないかと思われる相談が数件寄せられたことがあります。
 Aさんは、親戚の紹介で日本人男性と結婚しました。来日してすぐ、夫のスナック店で働かされ、店の二階で、他の従業員と暮らさせられました。夫は別のところに住んでいて、結婚の実態はありませんでした。Aさんは逃げたかったのですが、店にも住居にも見張りがいて、行動の自由も、お金もありませんでした。ある時、隙を見て逃げることができ、協会に相談に来ました。コミュニティ誌には、Aさんの大きな顔写真が、懸賞金付きで「指名手配」と載っていました。Aさんは警察に捕まるのではないかと恐怖でいっぱいでした。しかしそれは明らかに警察とは違うものでした。
 Bさんは、結婚あっせん業者の紹介で日本人男性と結婚し、来日しました。夫の“命令”で、Aさんは夫の仕事を手伝わされましたが、それに対して全くお金をもらえませんでした。「それならば外で働きたい」と言うと、夫は「それは当初の話と違う」と拒否しました。Aさんにとっても、それは当初の話とは違う上に、夫からの暴力もあり、Aさんは家を出て、あっせん業者のところに相談に行きました。業者はAさんを事務所に住まわせてくれましたが、パスポートを取り上げ、強制的に、別の男性に会わされました。
 協会に寄せられた相談は、このように、結婚という手段を使って、来日までの経緯は強制的ではなかったのですが、来日後に強制的に働かされ、自由を奪われているものでした。このような状況に陥らされ、誰を信用できるかわからず、わらをもつかむ思いで相談に来たと思います。
 諸外国では、明らかに人身取引とわかるやり方で、人が強制的に移住、労働させられているようですが、日本では、このように、法には触れないギリギリのような形で強制労働させられているケースが多いのではないかと思います。被害者は、社会との接点を切られていることが多く、また、自分が社会に守ってもらえるのかどうかわからず、声を上げることも非常に難しいでしょう。協会に寄せられた数少ない相談ケースは、世の中のごくごく一部にすぎないのではないかと思います。

(2013年7月号より)

吉嶋かおり(よしじま かおり)

外国人のための多言語相談サービス相談員。臨床心理士。2006年から担当しています。
どんな相談があるの?相談って何してるの?という声にお応えできるよう、わかりやすくお伝えできればと思ってコラムを書いています。