公益財団法人とよなか国際交流協会

外国人相談あれこれ

第39回 無法地帯の協議離婚

吉嶋かおり(よしじま かおり)

 2月22日(日)13:00~16:00にとよなか国際交流センターにおいて、シンポジウム「勝手に離婚されるだけじゃない!無法地帯の協議離婚~国際結婚のケースから」を開催し、82人の方々にご参加いただきました。
 日本人配偶者から勝手に離婚届を出されたという相談の中で、非常に深刻な問題となったケースがありました。そこで、外国人支援活動を行っている他団体に声をかけ、勉強会を行い、このシンポジウムを開催するに至りました。相談の事例などについては、以前のコラムで述べた通りです。
 シンポジウムでは、RINK(すべての外国人労働者とその家族の人権を守る関西ネットワーク)の木村さんから、該当ケースや国際結婚・離婚などの状況について概括していただき、私からは具体的な事例や問題点を報告しました。
 講演では、大阪市立大学の森山浩江先生に、各国の離婚制度についてお話いただきました。そして、日本の協議離婚制度は、離婚の意思がなくても離婚届を出されてしまうことがあること、親権者の決定までも当事者の合意なく一方的になされてしまうこと、さらに、当事者が「合意」して離婚届を出していてさえ、親権者、養育費、面会などの取り決めにおいて、公平性や弱者(子ども)保護が保障されていないことが指摘されました。例としてお話いただいたイギリス、ドイツ、フランスでは、離婚と離婚条件は裁判所を通して決定され、その合意形成についての支援があるということでした。また、協議離婚制度のある韓国でも、2008年に協議離婚制度改革が施行され、子どもの福利を守るための手続きと合意形成の確保を保障する制度が作られているそうです。
 また、立命館大学の二宮周平先生からは、日本の協議離婚制度(民法)が作られた歴史的背景についてのお話から始まり、韓国での状況について具体的なお話をいただきました。韓国では、子どもがいる場合、養育者、養育費、面会について、相談機関での面談を経て協議内容を決定するプロセスを導入し、子どもの利益を護ろうとしています。さらに、養育費の確保を国が補償したり、面会をサポートするという新たな取り組みも進められているそうです。さらに素晴らしいのは、これらについて多言語化も行い、外国人もきちんと権利が守られているのです。一方日本でも、明石市では、離婚届の配布時に、子どもの養育プランや合意書の様式などをセットで渡し、相談体制を設けるといった斬新な取組みが始まっているそうです。これは強制力はありませんが、協議離婚届を受理する自治体でできるものであり、子どもの視点に立って離婚を進めなければならないのだという啓発に大きくつながると思います。
 制度は、長く続くと文化となり、私たち個人個人の意識に浸透していきます。明治時代に作られた旧態依然の民法観が私たちの意識を作り、これほどの大問題を引き起こしているにも関わらず、問題だと感じられない麻痺を引き起こしているのではないでしょうか。森山先生が、「協議離婚制度が弱者を生んでいる」とお話になりました。日本で協議離婚は離婚全体の87%、子どもは多くの場合その過程から置き去りにされるだけでなく、養育費の不払いや親との交流断絶が珍しくありません。そのような現状はあまりに「普通」すぎるために、私自身、諦めが沁み込み、麻痺していたことに気づかされました。
 多くの人にとって簡便に見える協議離婚ですが、多くの子どもにとっては権利を放棄させられ、そのことで人生に多大な影響を及ぼしています。また多くの母子家庭が、養育費をもらえず経済的に困窮していることは、すなわち社会保障費の点からも問題となっています。
 今回のシンポジウムは多くの学びを得ることができました。相談を寄せた方々が泣き寝入りをしなくてもすむ社会へ向けて、できることを模索していきたいと思います。

(2015年3月号より)

吉嶋かおり(よしじま かおり)

外国人のための多言語相談サービス相談員。臨床心理士。2006年から担当しています。
どんな相談があるの?相談って何してるの?という声にお応えできるよう、わかりやすくお伝えできればと思ってコラムを書いています。