第31回 私がガイジンだから
吉嶋かおり(よしじま かおり)
「私がガイジンだからこんなめにあった」。
ここ最近、二人の相談者から、このようなことを言われました。
二人の相談はもちろん別で、具体的な背景や内容は全く異なっていましたが、二人とも夫との別居・離婚を望んでいて、でも八方ふさがりの気持ちになっていたところは同じでした。
一人は、お金がなく、働くことにも困難を感じていて、別居の具体的な見通しを持てないでいました。でも夫から離れたい気持ちがとても強いので、何もできないジレンマを感じていました。辛さやいらだちは強く、「こんなに辛いのに誰も助けてくれない!」という気持ちを持っていて、それは、自分が外国人だからという怒りにつながっていました。相談の中で彼女は、「私がガイジンだから、助けてくれないのだ!」と怒って泣きながら私に気持ちをぶつけてきました。
もう一人も夫から離れることを望んでいましたが、それは、夫やその家族などの周囲の人たちが、彼女を追い込むようなことをしてきたことが原因でした。その中では夫からの暴力もありました。それまでさまざまなことに耐えて結婚生活を続けてきた彼女は、自分は悪いことは何もしてないのに、周りの人が自分ではなく夫の言うことを信じてしまっていることに対して、「私がガイジンだから」馬鹿にされているのだと、怒って泣きながら私に訴えました。
外国人差別は確かにあり、それは様々な場面でも、心理的にも起こっています。相談では、相談者が「差別だ」と訴えるとき、それが実際に差別によるものなのか、それとも、相談者の受け止め方によるものなのかを、慎重に伺います。というのも、あまりにも辛い状況のなかでは、自分がなぜこんなめにあうのかという思いを抱くことがありますが、そのとき、「自分が外国人である」という理由でその状況を理解してしまうこともあり、実は“差別問題”というわけではない場合があるからです。
もちろん、相談者が「差別だ!」と訴えるそのつらい気持ちは、しっかりと受け止めるようにしています。辛い気持ちは真実だからです。しかし、差別問題として扱うかどうかは、相談の内容を十分に聞き、話し合っていく中で相談者とともに考えていきます。
先の二人について言えば、どちらも実際の差別問題ではないと判断できるものでした、前者は、怒りをぶちまけた後に私の話を聞く気持ちになれたようで、自分の状況を理解し、整理できたようです。また後者は、ただそのつらい気持ちに耳を傾けているだけで、安心した様子でした。
私は、外国人の相談者が日本人の私に向かって、「日本人が私を差別している!」と訴えることを、とても重要なことだと受け止めています。そのように正直に怒りと悲しみをぶつけることができるぐらい、相談の場はオープンで安心できるものにしたいと思っています。
(2013年2月号より)
吉嶋かおり(よしじま かおり)
外国人のための多言語相談サービス相談員。臨床心理士。2006年から担当しています。
どんな相談があるの?相談って何してるの?という声にお応えできるよう、わかりやすくお伝えできればと思ってコラムを書いています。