第29回 国籍要件と300日規定
吉嶋かおり(よしじま かおり)
少し前に、芸能ニュースが発端となって、生活保護が取りざたされていました。生活保護の不正受給がクローズアップされ、批判的な雰囲気が強まっていたと思います。
外国人(外国籍の人)は、実は生活保護の対象ではありません。生活保護法の「準用」という形で適用されています。福祉六法と言われる、福祉に関する六つの法律の中で、生活保護法だけが国籍要件を設けています。最低限度の生活が保障されるよう、生活保護を求める権利が国民にはありますが、外国人はその権利はありません。そのため、生活保護受給に関する決定内容に不満があっても、不服申し立てをすることもできません。
外国人は生活保護を「準用」して受けられますが、それも全ての外国人に当てはまるわけではなく、在留資格がない人(オーバーステイ)は受けることができませんし、在留資格の種類によっても、受けることができない人がいます。
このように、国籍要件で排斥されているため、実際には大きな問題に直面している外国人がいます。
Aさんは、日本人夫の激しい暴力を受け続けていました。国際結婚のDVによくあることですが、Aさんは夫から現金を全く持たされず、自分で行動することはほとんど不可能な状況で過ごしてきました。ある日の酷い暴力から、Aさんは保護を受け、子どもとシェルターに避難し、その後母子寮に移りました。Aさんは夫から在留資格を更新する協力を得られず、オーバーステイの状態でした。そのため、子ども(日本国籍)は生活保護を受けることができましたが、在留資格のないAさんは受けられませんでした。自分のお金が全くなく、親類からの援助を頼ることもできない状況のなかで、在留資格特別許可を得るまでの間、Aさんは生活保護を受けられないまま過ごさざるを得ませんでした。
Bさんは、日本人の夫と離婚した後、別の日本人男性と出会い、交際、そして妊娠しました、交際相手は婚姻中だったため、子どもは認知を受けることにしましたが、離婚後300日規定(※)のため、認知ができませんでした。そこでともかくも、子どもはBさんの国籍を取得しようとしましたが、Bさんの国の大使館は出生届を受け付けず、子どもは無国籍となってしまいました。そして無国籍の子どもは、生活保護を受けることができませんでした。
このように、生活保護法に国籍要件があるために、生活が困難に陥るケースが生じており、家族の中でも分裂してしまっています。AさんやBさんは、生活保護が受けられるようになるまでに、かなりの時間がかかります。時間がかかったとしても、いつかは受けられる可能性があるだけ、まだ良い方かもしれません。夫の暴力などのような、被害者に落ち度のない場合や、子どもが関わっている場合は、状況に応じた柔軟な対応がなされるよう、「準用」の変化を願っています。
※「離婚後300日規定」…民法772条により、離婚後300日以内に生まれた子は、遺伝的関係とは関わらず、戸籍上前夫の子とされること。国際結婚をしている日本在住の外国籍女性(妻)に対しても、女性の本国法に関わらず、この規定が適用されます。
(2012年10月号より)
吉嶋かおり(よしじま かおり)
外国人のための多言語相談サービス相談員。臨床心理士。2006年から担当しています。
どんな相談があるの?相談って何してるの?という声にお応えできるよう、わかりやすくお伝えできればと思ってコラムを書いています。