第24回 国際結婚の遺産相続
吉嶋かおり(よしじま かおり)
遺産相続は、家庭関係や金銭問題についての様々な事情や感情が絡む、複雑な問題となることがありますが、国際結婚でもこれは同様です。
相談では、問題の中心は、遺産相続についての法律を理解していないことに関わるものです。多くの日本人は、何となくでも、配偶者と子どもに相続の権利があるということを理解していますが、外国人の場合は全く白紙のために、大きな不安を抱いている人がほとんどです。
Aさんの日本人夫は、突然倒れ意識不明になりました。とても急な出来事でした。Aさんの夫は、前の結婚で日本人の妻と成人した子どもがいました。入院中、子どもが突然家にやってきて、夫名義の家の権利書や通帳などを全て持って行ってしまいました。Aさんは驚き、どうしたらいいかわからず、また強い憤りを表していました。夫の子どもは、Aさんには遺産はないと言っていたそうです。
Bさんの夫は、仕事中に突然の事故で亡くなりました。その際、会社から「よくわからない」お金を受け取ったそうです。その後友人から、もっともらえたはずではないかと言われ、相談に来ました。Bさんが受け取ったお金は、書類上では「よくわからない」趣旨のものでした。また、もらえたはずであろう労災や退職金について、Bさんは何も知りませんでした。
Cさんは、日本国籍をとらないと遺産を受け取れないと日本人夫に言われ、本当は嫌でしたが、帰化することにしました。夫は遺言を作成しようとしていましたが、Cさんはその内容に不満を抱いていました。実はCさんは、遺産を受けるために帰化する必要はありませんでしたが、夫とのコミュニケーションがうまくいっていなかった上に、Cさんは日本の遺産相続について全く知らなかったために、様々な思い込みや誤解をしていました。
いずれも、正しい法律上の知識がなかったために、誤解したり不利益を受けたりしていたケースです。相談では、相続に関する法律の基本的な情報を提供します。その上で、相談者が法的に対応したい場合は、そのやり方を説明していますが、手続き的にも金銭的にも壁を感じて、具体的に進める相談者は、今までいませんでした。そのため相談では、複雑な感情を傾聴し、相談者の気持ちを受け止めるよう努めています。
結婚した時に、配偶者との別離に備えるカップルは少ないだろうと思いますが、離婚か死別により、いつかは別れがやってきます。日本語と日本の法制度に不案内な外国人にとっては、十分備えておければいいと思いますが、実際は難しい問題なのだろうと思います。
(2012年2月号より)
吉嶋かおり(よしじま かおり)
外国人のための多言語相談サービス相談員。臨床心理士。2006年から担当しています。
どんな相談があるの?相談って何してるの?という声にお応えできるよう、わかりやすくお伝えできればと思ってコラムを書いています。