第21回 総合的な相談対応
吉嶋かおり(よしじま かおり)
前回の終わりに、外国人は情報・制度「弱者」であると述べました。外国人の支援においては、支援者側が問題や状況を総合的にとらえ、対応する姿勢が大切です。相談者は、ある具体的な困りごとがあっても、それをどうやって解決できるのか、それは支援を求められることなのかどうか、どこに支援を求めたらいいか、支援は無料で受けられるかどうかといったこと全てにおいて、困難にぶつかることが多いのです。
Rさんは子どもと二人暮らしの母子家庭です。Rさんには様々な困難があります。夫が急死したので、まず住まいやこれからの生活に困りました。これまでの心労から気分の波が強く、ひどいうつ状態になっていましたが、病院に行ったりはしていませんでした。しんどさのあまり子どもを叩いてしまい、それで自己嫌悪に陥ってしまうことが時々ありました。子どもは体が弱く、よく発作も起こしていました。子どもは日本語をどんどん覚えますが、Rさんの母語は話さず、Rさんは寂しさと不安がありました。子どもはお父さんに会いたがるけど、どう理解させれば良いか、子どもの幼稚園の先生に嫌なことを言われたなどの悩みもありました。Rさん自身、周りに友だちがおらず、寂しい思いをしていました。経済的には自立したいし、何かしたいという気持ちがありますが、なかなかうまくいきません・・・。
支援を始めるときには、まず相談者の状況や心理状態を把握し、問題を整理し、どれから取り組むか、順序や緊急度を査定します。それを相談者と共有し、説明します。Rさんの場合では、まずは生活安定のために、住居をさがすこと、生活保護を検討することでした。次に、希望があったので母子ともに病院を探しました。あらかじめスタッフが病院に連絡し、言語の面でもスムーズにいくようにしました。それから、日本語を学ぶためにセンターで行っている事業に参加し、参加者やスタッフと楽しく過ごしてもらい、気分転換ができるように配慮しました。その後、子どもとの関係や彼女の日常生活について話をすすめたり、他の相談機関やサポート制度を案内しました。心身共に可能な状態になったら、仕事探しか、社会参加を探っていくことになります。
このような見通しのなかで、Rさんが自分でできることは何か、サポートが必要なことは何かについて見立てます。支援者が何でも代わりにやってあげることは、相談者の自立を妨げ、無力さを植え付けることになります。励ましたり、具体的に明示したり、一部だけサポートしたりして、なるべく自分でやってもらうことは大切です。支援者が代わってする場合でも、相談者と一緒にするようにします。Rさんが住居を探すときにも、駅近くの不動産業者をピックアップしたり、条件をあらかじめ考える、インターネットで一緒に探してみる、業者とのやりとりを練習する、契約における注意を確認するなど、細かく話し合いました。
相談者自身に「力」があれば、自分で支援機関や利用できるサービス等にアクセスできますが、外国人相談では、支援者が相談者とともに、総合的にコーディネートしています。このような総合的な対応は、外国人支援にとどまらず、さまざまな領域でも推進されてきています。
(2011年8月号より)
吉嶋かおり(よしじま かおり)
外国人のための多言語相談サービス相談員。臨床心理士。2006年から担当しています。
どんな相談があるの?相談って何してるの?という声にお応えできるよう、わかりやすくお伝えできればと思ってコラムを書いています。