公益財団法人とよなか国際交流協会

リレーコラム(2015年度~)

2022年3月 이모저모通信(第11回)

皇甫康子(ふぁんぼかんじゃ)

勇気と信頼の持てる本

 年末年始、いろいろあって疲れ果てていた。重たい気持ちのまま読んだ本の中に、これはと思うものがあった。
 安田浩一著の『学校では 教えてくれない 差別と排除の話』は外国人労働者の問題、「ヘイトスピーチ」がなぜ生み出されるのか、沖縄についてどれだけ知っているのかという3つのテーマが軸になっている。著者の取材によって浮かび上がるのは研修生や実習生として日本の経済を支えている外国人労働者が最低賃金も守られず、外国人だからという理由で平気で差別する経営者からの被害の実態を告発している。しかし、経営者だけの問題ではなく、その先にある親会社の搾取、外国人の人権をまもろうとしない日本政府の政策がある。
 最初は「ヘイトスピーチ」をするのは一部の偏った人たちと、だれもあまり関心を寄せなかった2006年頃から著者は取材をしている。「フツーの姿をした差別主義の人たち」の活動に合流する人が増え、差別のハードルがどんどん下がっていっている。社会への不平不満を大声で訴える相手は「在日」をはじめとする外国人や弱者という間違った行為によって、壊れていくのは人の心だけでなく、その人たちが暮らす地域や社会も壊れていくのだと断言している。沖縄に基地を押しつけながら、その日常を知ろうともしない私たちの姿にも言及している。
 織田朝日著の『「となりの難民」日本が認めない99%の人たちのSOS』も圧巻だった。「入管」の公衆電話から著者にかけてくる人は東京と品川と牛久の施設に収容されている人たちだ。「体調が悪いのに、医者にみてもらえない」「仲間がいじめられたので、抗議したらひどいことを言われた」「持病の薬を飲ませてもらえない」などのSOSを聞き、支援をしている著者たち。毎日、面会に出向き収容者たちを元気づける。「非正規滞在者」となる理由はさまざまだが、事情があり自分の国に帰れない人たちが、いつ出られるかわからない無期限の収容に苦しめられているのが現状だということだ。あまりのつらさに病気になったり、自殺したり、医療放置によって命を落とす人もいる。驚いたのは、日本で生まれ育って、結婚し、子どもまでいる女性が収容されたという事実だ。収容者には人権がないといわんばかりの対応だ。日本で生まれ育ち死んでいくだろう私も「在留権」は持っているが、収容者になる可能性がないわけではない。差し迫った事態になっても多彩なアイデアを出し合い、活動を持続させている著者たちの姿を知り、本当に勇気づけられた。
 二冊の本に共感できるのは、被害者や収容者の気持ちにいつも寄り添って活動していることだ。支援者もすごいが、本当にすごいのは当事者たちなのだから。

皇甫康子(ふぁんぼかんじゃ)

2018年2月号に最終回を迎えた連載「なんじゃ・カンジャ・言わせてもらえば」の執筆者、皇甫康子さんの新しいコラムがスタートします。皇甫さんの想いとメッセージがイモヂョモ(あれこれ)詰まったコラムをどうぞ。