2024年11月 이모저모通信(第19回)
皇甫康子(ふぁんぼかんじゃ)
松元ヒロさんのライブを初めて観た。抱腹絶倒の笑いの中で、新聞をにぎわせている、あきれる政治家たちに一矢報いた気持ちになった。涙が出るほど笑ってしまう風刺だけでなく、感動する話がちりばめられている。すごい芸人だ。コント劇団「ザ・ニューズペーパー」のメンバーとして松元さんが村山富市元首相を演じたのを覚えているが、99年ごろからその姿はテレビでは見ることができなくなっていた。22年1月に公開されたドキュメンタリー映画「テレビで会えない芸人」を見て、ライブで全国を回っている事を知る。一度、見てみたいという願いがようやく、この8月に京都で叶った。80人が入ると満杯の会場で、アンコールも入れ2時間のライブだった。首相のふがいなさ、関東大震災の朝鮮人虐殺の事実を認めない都知事、不祥事を起こしても議員をやめない恥知らずな政治家を批判する姿は痛快で凛々しい。絵本「憲法くん」が引用された小説「未明の砦」のお話を聴き、非正規労働者の若者たちが組合を作っていく闘いに、これからの希望を見出した。独立してからは番組から干され、困り果てていると「おやこ劇場」の女性たちから連絡が入る。そのおかげで全国を回り、何とか食べることができたそうだ。松元ヒロさんを毎年、呼ぶ市民運動の存在に、安堵のため息が出る。
みんなこのライブに集まって、溜飲を下げていたのだと知った。主催者でもないのに、打ち上げに参加させてもらい、ビールを飲みながら松元さんのお話を聴くことができた。パントマイムの師はマルセル・マルソーだそうだ。1923年ストラスブールでユダヤ系の家庭に生まれたマルソーは1940年にナチスのフランス進攻が始まるとレジスタンスに加わりフランス南西部に逃れる。ゲシュタポに捕えられた父親は、アウシュビッツ強制収容所で亡くなっている。松元さんはマルセ太郎さんを兄弟子だと思っているそうだ。私が好きなヨネヤマママコさんも、1955年初来日のマルセル・マルソーの舞台を見て感動し、パントマイムの世界に入った。「そこには動きによるユーモアがあり、ウィットがあり、風刺があった。何よりも演じる人間が個性的であることが重要だった」と絶賛している。まるで松元さんの舞台ではないか。9月の吹田でのライブも追っかけた。政治談議などできない日常の中で、ここでは私の考えは多数派なのだとうれしかった。
皇甫康子(ふぁんぼかんじゃ)
2018年2月号に最終回を迎えた連載「なんじゃ・カンジャ・言わせてもらえば」の執筆者、皇甫康子さんの新しいコラムがスタートします。皇甫さんの想いとメッセージがイモヂョモ(あれこれ)詰まったコラムをどうぞ。