公益財団法人とよなか国際交流協会

リレーコラム(2015年度~)

2019年01月 이모저모通信(第2回)

皇甫康子(ふぁんぼかんじゃ)

韓国映画「共犯者たち」と「自白」 そして、「1987」(第2回)

ある日の昼休み、MBCの社屋で「社長は出ていけ!」と大声で叫ぶ自分の姿をスマホで生中継するプロデューサーがいる。たった一人のアクションが本館ロビーでの何十人もの自撮りライブへとあっという間に広がる。「いま闘っている人を孤独にしてはだめだ。それが闘いの重要な原則だ」と訴えるMBC労働組合の委員長もその中にいた。
 公共放送のKBSと公営放送MBCの労組は賃上げのためのストライキが一度もない。「放送の公共性と報道の独立性を壊し、市民ではなく政権に奉仕するニュースをつくれという社長の退陣を要求するためにストをした」と語るKBSの委員長。「MBCは放送界で最初に労組ができた。1987年だ。当時軍事独裁政権下で民主化のために立ち上がった『六月民衆抗争』のことをMBCはきちんと放送せず、現場の市民から石を投げられた。その反省から、制作の自由を守り、公正な報道を要求するため労組を結成した」と語るMBSの委員長。韓国の言論人たちは、全国言論労組として横断的に連帯し闘ってきた。
 2008年、米国産牛肉の輸入問題の報道により李明博政権が大打撃をうけたことから、本格的な言論統制がはじまった。KBSがまずターゲットになり、社長が解任される。次に2010年、MBCもトップが入れ替えられ占領される。放送検閲という最悪な状況下、299人が死亡、5人が行方不明となった大惨事、「セウォル号沈没事件(2014年)」で「全員救助」という歴史的な誤報をしてしまう。そして、朴槿恵前大統領退陣の原因となった「崔順実ゲート事件(2016年)」の真実を隠蔽しようとするなど、政治権力の「宣伝広報」に転落していった。
 KBSやMBSが取材しようとすると、「真実を報道しない放送局なんかいらない。帰れ!」と市民からの叱責が飛ぶ。しかし、労組のストを応援し、言論弾圧による解雇や懲戒をうけた記者やPDで2013年に設立された、調査報道を専門とする「ニュース打破(ダパ)」の会員となり、年間約5億円の会費で独立性を確保した報道を支えているのも市民だ。
 画面に吸い寄せられたままの105分だった。そして、政治犯を政府がねつ造していく事実を告発した映画「自白」の中に、40年ぶりに無罪判決を勝ち取った「在日」の元政治犯たちの姿を見つけた。「1978」を含め、必見の映画だ。

皇甫康子(ふぁんぼかんじゃ)

2018年2月号に最終回を迎えた連載「なんじゃ・カンジャ・言わせてもらえば」の執筆者、皇甫康子さんの新しいコラムがスタートします。皇甫さんの想いとメッセージがイモヂョモ(あれこれ)詰まったコラムをどうぞ。