公益財団法人 とよなか国際交流協会

リレーコラム(2015年度~)

2022年11月 이모저모通信(第13回)

皇甫康子(ふぁんぼかんじゃ)

 連日、35度を超える猛暑の夏。コロナの感染者が減少することもなく、親しい友人たちとも会えず、気持ちが前向きにならない。落ち込んでばかりもいられないので、映画館や劇場に何度か出かけた。劇団タルオルムの『さいはての花のために』と『さいはての鳥たち』は在日朝鮮人の歴史が見事に描かれた秀逸の作品だった。
 映画も何本か観たが、韓国第15代大統領・金大中とその選挙アドバイザー、厳昌録をモデルにした実録ドラマ、『キングメーカー』の、人間心理を利用するすごさに圧倒された。巨大な権力に対抗し、大統領選までのし上がるには、不正を糺(ただ)し、命を賭けて国民の暮らしや自由を守るという決意や心情を訴える力がないとダメだ。名優、ソル・ギョングはその実力を発揮し、本物の大統領候補のようだった。勝つために手段を選ばない厳昌録に対して、苦言を呈する金大中だが、結局、裏切られ、1972年には日本に亡命するが、1973年には拉致され韓国に連行される(金大中事件)。1980年には光州抗争の首謀者とされ、死刑判決まで受けるという受難の歴史を歩むことになる。
 選挙中、裏切った厳が全羅道と慶尚道の歴史的にも敵対してきた地域感情を煽り、人物ではなく地域によって無条件に非難したり、擁護したりする場面が恐ろしい。選挙だけでなく、地域による厳しい差別は都会での家探しができない、就職ができないなど長い間、辛酸をなめさせられた人が多い。厳は一番差別を受けた、北出身だったというのも辛い事実だ。
 コロナ禍の前に訪問した木浦で、「金大中ノーベル平和記念館」を見学した。5回もの死線を超えた活動の記録や主張、個人史が展示され、見応えがあった。彼は木浦の英雄であり、その偉業が称えられている。日本の植民地時代、日本人街だった街全体がその時の歴史を伝えるミュージアムになっていた。
 映画を観ると、どんな国にしたいのかという彼の考えや信念が理解できる。71年の大統領選で彼が勝利していれば、その後に起きた、「在日政治犯事件」もなかったのではと、仕方のないことを考えてしまう。
 エンターテインメントな映画が、隠されていた事実や真実に迫り、どのように現在の韓国になったのかを明らかにしてくれる。観終わったあとは、勇気と怒りを持って世の中を変えていきたいと思えるのだ。民主化と共に、そんな韓国映画がたくさん作られている。まだまだ、歴史の闇に葬られている真実に光を当てる作品が、今後も期待できそうだ。

皇甫康子(ふぁんぼかんじゃ)

2018年2月号に最終回を迎えた連載「なんじゃ・カンジャ・言わせてもらえば」の執筆者、皇甫康子さんの新しいコラムがスタートします。皇甫さんの想いとメッセージがイモヂョモ(あれこれ)詰まったコラムをどうぞ。