公益財団法人とよなか国際交流協会

なんぢゃ・カンヂャ・言わせてもらえば

第12回 食べ物から平和の尊さを実感

皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)

 地域に住んでいるリュウさんに、料理を教えてもらって三年目になります。ハルピンから日本に来て、九年になるリュウさんなので、日本語で五年生に指導をしてもらっています。教えていただくのは中国のおやつ、油餅(ヨウピン)です。薄力粉を四〇度のお湯でまるめ、一五分寝かし、伸ばして巻き、ひねってつぶし、また伸ばします。生地の中には、塩とゴマが入っていて、フライパンでやくと、パイ生地のように何層にもふくらみます。熱いうちに食べると、ぱりぱり、もちもち、香ばしくておいしいです。こねたり、伸ばしたりの作業も楽しく、材料も手軽なので、子どもたちに大好評です。
 料理だけでなく、リュウさんには、春節(旧正月)を迎える、極寒のハルピンについても話をしてもらいました。氷雪の彫刻でピラミッドなどを作る、「氷雪祭」の様子や、春になると、松花江の厚い氷を割るために、爆弾がしかけられることを聞き、子どもたちは驚きの声を上げます。中国東北部のハルピンは厳しい寒さゆえに、作物が育ちにくく、餃子や肉まん、麺などの小麦を使った主食が主流だということも教えてもらいました。その土地の気候や風土によって、料理もさまざまです。
 リュウさんの他にも保護者に来てもらって、バナナトロンを作ったり、タイ語の先生からナンプラー(魚醤)を使った、タイのおかゆを教えてもらったこともあります。今まで、見たこともない調味料や素材、旨みに、感動し、その国の、生活習慣を知ることができました。
 私が考えた、ねぎの輪切りとミンチ肉を入れて焼く、ねぎチヂミも、子どもたちは大好きです。ねぎ嫌いの子どもが、ねぎチヂミは食べれると言ってくれます。アレルギーのある子がいる時には、ジャガイモチヂミを工夫してつくりましたが、これも美味しいと好評でした。先日、感謝の気持ちを家族や先生たちに送ろうと、六年生がカクテギ(大根のキムチ)を漬けました。八〇本の大根は、みんなの手の温もりで、味がしみ込んだ、美味しいキムチになりました。真っ赤なキムチをほおばる子どもたちの顔を見て、幸せな気分になりました。
 二月一一日に開催された「平和と人権を考える」集いで、「証言 沖縄戦の日本兵」を書かれた、フォトジャーナリストの國森康弘さんの、お話を聞きました。沖縄戦の「集団自決」に関与した元日本軍兵士たちが、六〇数年の沈黙を越えて、証言した内容は生々しく、恐ろしいものでした。日本が一番、日本の文化が一番、それ以外は認めない、徹底的に蔑視することで、平気で沖縄住民を死に追いやったり、朝鮮人を殺すことができたそうです。兵士は、日常的に上官や先輩たちからの暴力や虐めにおびえ、命令通りに生きることを叩き込まれたと、証言者は言います。國森さんは、「誰でも、環境、立場、肩書きが与えられれば、平気で人命を奪うことができる。戦後に生まれた日本人として、二度と戦時にもどらないよう、自分を戒め、『国』を監視するしかない」と訴えられました。沖縄戦の凄惨な悲劇は、異なる民族を蔑視し、無理矢理、日本人にしようとした教育が、大きく加担していると思います。
 子どもたちに平和な未来を残すために、多様な文化を知ったり、体験したり、交流することで、違いを受け入れる柔らかい心を育てていきたいです。今年も、初めての味に出会えることを楽しみに、旧正月を迎えました。

皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)

1957年大阪生まれ兵庫育ちの在日朝鮮人(朝鮮人は民族の総称)。
在日女性の集まり「ミリネ」(朝鮮人従軍慰安婦問題を考える会)代表。
「家族写真をめぐる私たちの歴史-在日朝鮮人、被差別部落、アイヌ、沖縄、外国人女性」責任編集。2016年、御茶の水書房刊。
小学校講師。
家族写真を使って、個人のルーツや歴史を知り合うワークを開催している。