第16回 もっと知りたい!学びたい!
皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)
今年度も国際理解学習の実践がはじまりました。全校集会ではじまり、各学年の学習発表で終わる、一年間の取り組みも九年目を向かえ、私が配属されてから五年目になりました。一年生から六年生まで、発達段階に合わせたカリキュラムを作り、実践していますが、同じ学習でも、子どもが変わると、毎回、異なる取り組みになります。今までの実践を土台にして、新しいことも入れながら進めていますが、授業づくりの悩みは尽きません。長い間、続けていると、指導する側の思い込みや、マンネリに陥ることもあります。そうならないためには、子どもたちから学ぶ姿勢を忘れず、授業を改良していく地道な努力が必要です。
今年のテーマは、「子どもの実態に合わせた国際理解教育」に決まりました。「子どもが知りたい、体験したいと願う国際理解教育」を目指したいという思いです。
一年生で、はじめて出会う、韓国・朝鮮の文化を紹介しました。今回はできるだけ、教え込むのではなく、子どもたちに考えてもらう授業にしました。まず、「日本から一番近い外国はどこですか。」と聞くと、元気よく手を上げて、ほとんどの子どもたちが「韓国」と答えましたが、中にはイタリアという子もいました。「どうして、イタリアだと思うの?」と聞くと、お母さんたちが新婚旅行に行ったのがイタリアなので、写真がいっぱいあるそうです。「なるほど、それで、イタリアが近い国だと思うんやね。」というと、みんなも納得しています。「それでは、どうして韓国だと思いますか?」と聞くと、「ハイ!ハイ!ハイ!」と手を上げてくれた子どもたちは、「韓国に行ったことがある。」「テレビで近い国といっていた。」など、理由を言ってくれます。
実際に大きな地図を見て、みんなで確認してみました。大阪からだと、北海道や沖縄より韓国の方が近いことや、海に囲まれた日本と違って、朝鮮半島は中国やロシアとつながっていることなどを発見してもらいました。遠い国や、中国の文化が朝鮮半島を通って、日本に伝わったことを話しながら、衣装や楽器、食器、遊びなどを見せました。時々、「知っている!」と叫ぶ子もいます。三月の入学前の学校訪問のときに今の二年生が、韓国の遊びを教えてくれたことを思いだしたようです。最後に朝鮮の独楽、ペンイをどうやって回すのか考えることを、次回までの宿題にしました。
最初の授業から、子どもたちが、もっと知りたいことをカードに書いてもらいました。「ちゃんごは どうして あんなかたちですか。」「かんこくの もじが しりたい。」「みせてもらったのとちがう しょっきは ありますか。」「かんこくの やまは どんなかたちですか。」「かんこくの さかなは どんなのですか。」「かんこくの きゅうきゅうしゃの さいれんは どんなおとですか。」「かんこくの おかねはどんなんですか。」「かんこくの くるまは どんなかたちですか。」「どんな どうぶつが いますか。なきごえは?」などなど、答えるのが難しい質問も寄せてくれ、大いに悩みました。
写真を探し出して、山や自動車を見せました。次に、チャンゴを解体して見てもらいました。そして、ハングルの文字表から、母音の多さや、組み合わせ文字だということに気づいてもらいました。驚いたのは、子どもたちが、韓国と日本の海が、つながっているのを知らなかったことです。魚は自由に、いろんな国を泳いでいるというと、びっくりしていました。ハングルを作った、世宗大王の本物のお札を見せると、「はじめてみた。きれい。」と大騒ぎです。最後に、子どもたちが考えたペンイの回し方を見た後、私が模範演技をして拍手をもらい、二回目の授業を終えました。準備が大変でしたが、初めて知る子どもの反応もあり、面白かったです。子どもたちも、「次はいつ?」と聞いてくれ、授業を楽しみにしてくれているようです。
四月二四日に開催された「四・二四阪神教育闘争六二周年記念集会」で、こんな悩みが語られました。民族学級も長年あり、ずっと取り組みがある小学校なのに、最近、心無い差別発言が子どもの中から起こったというのです。ハングルを言ってみたり、文化に親しんだりという取り組み自体が、形だけになってしまっているのではないかと、悩まれていました。そもそも、どうして韓国や朝鮮のことを、学習するのでしょうか。日本の侵略戦争による植民地統治を受けた朝鮮人たちが、日本での生活を余儀なくされて、百年近い年月が経ちました。今なお、民族名を名乗れず、自分のルーツを隠したり、知らされずにいる子どもたちがたくさんいます。新たに日本に来た外国の子どもたちも、日本社会から排除されるという同じ悩みを持っています。多様な文化は日本社会を豊かにしてくれるという、考えを持つ人は、まだまだ少数です。
幼い頃から、隣の国、友達の国の文化と出会い、「もっと知りたい、学びたい」という気持ちになれる、そんな授業をしていきたいです。
皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)
1957年大阪生まれ兵庫育ちの在日朝鮮人(朝鮮人は民族の総称)。
在日女性の集まり「ミリネ」(朝鮮人従軍慰安婦問題を考える会)代表。
「家族写真をめぐる私たちの歴史-在日朝鮮人、被差別部落、アイヌ、沖縄、外国人女性」責任編集。2016年、御茶の水書房刊。
小学校講師。
家族写真を使って、個人のルーツや歴史を知り合うワークを開催している。