第19回 保護者の思いは熱く
皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)
民族教育や外国人の子どもたちへの教育を考える集まりには、できるだけ参加したり、報告をしたりしています。今年度も、すでに、たくさんの人の話を聞いたり、出会ったりしていますが、九月一九日に生野区で開催された、神戸・大阪・奈良、三地域の保護者モイム(集まり)では、「日本の学校における民族教育の現状と可能性―地域を越えて一人ひとりの子どもを大切にー」というテーマで、各地域の取り組みや課題がリレートークで報告されました。
日本の学校に通う在日韓国人、朝鮮人の子どもたちの民族教育を権利として求める保護者たちは、居住している市や府、県に毎日のように働きかけをしたり、自力で民族キャンプや民族祭り、子ども会等を開催してきました。すでに民族学級が設置されて、六〇年、三〇年になる、大阪市内のような多数在籍地域では、保護者会が長年、民族学級や民族講師たちを支援し続けています。奈良や池田のような民族少数点在地域では、本名で子どもを通学させることがとても不安で、仲間がほしいという願いは切実です。子どもが民族のことで嫌な思いをすれば、たった一人で、学校や、教育委員会に出かけ、陳情しますが、二〇数年前は選挙権がない外国人の母親の言うことなど、相手にしてもらえませんでした。民族差別を受けても相談できるのは家族だけ、という心細い状況の中で、保護者たちが集まり、知恵を出し合った粘り強い活動が、学校や行政を動かし、不可能を可能にしてきたのです。
九五年から毎週土曜日、神戸市内の公立学校に通う「在日」の子どもたちが言葉や民族文化を学ぶ、オリニソダン(子どもの書堂)を開設、運営している、神戸の保護者会から、二〇〇四年には長田区の蓮池小学校に、二〇一〇年には須磨区のだいち小学校に「オリニソダン」が増設されたと報告がありました。昔から「在日」が多く住んでいるのに、神戸にはずっと、民族学級がありませんでした。日本の学校や教師たちの多くが、朝鮮学校との交流しか取り組んでいなかった状況での設置、増設はすごいです。奈良の保護者会からは、毎年、保護者の手で開催されてきた、夏の民族キャンプの卒業生が、教員採用試験に挑戦し続け、五回目の今年度、奈良県初の外国人教員となったという報告がありました。「本名の教師が奈良の子どもたちの前に立ってほしい。」という保護者たちの悲願がようやく実現したのです。
そして、今、まさに小学校や中学校、高校の子どもを持つ、保護者の声を聞きました。長年、民族学級が学校内で運営されている地域は、学校任せになりがちな保護者の意識化や、日本人との交流の必要性が語られます。日本人の理解を得ないと取り組めなかった少数点在地域からは、キャンプや子ども会だけでなく、学校内に民族学級を設置するための知恵を貸してほしいと、問いかけがありました。小学校では、本名を名乗ることが当たり前だったのに、中学校や高校で、何度も「日本語うまいね」「変わった名前やね」と聞かれ、いちいち説明しなくてはならないが、どうして、「在日」のことを知らないのか、逆に聞きたいと怒る子どもたちの姿が紹介されていました。また、朝鮮人の自分を誇れないまま大人になった親が、本名で頑張っている子どもを育てながら、自己回復しているという話を聞き、世代が違っても重なり合う親の思いを確認しました。
地域や学校、教師のちがいで、元気になったり、傷ついたりする子どもの横で、親は一喜一憂の毎日を送っています。日本社会はまだまだ、私たちが望むほどには変化していません。日本国籍を持つ親、本国からきた親、若い世代や同世代の保護者が語る熱い思いに、私も奮い立ちました。
皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)
1957年大阪生まれ兵庫育ちの在日朝鮮人(朝鮮人は民族の総称)。
在日女性の集まり「ミリネ」(朝鮮人従軍慰安婦問題を考える会)代表。
「家族写真をめぐる私たちの歴史-在日朝鮮人、被差別部落、アイヌ、沖縄、外国人女性」責任編集。2016年、御茶の水書房刊。
小学校講師。
家族写真を使って、個人のルーツや歴史を知り合うワークを開催している。