第28回 困難に立ち向かう力を
皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)
連日の東日本大震災の記事やニュースを見たり、原子力発電所を巡る不安な状況を聞いたりしていると、一九九五年、一月一七日の阪神・淡路大震災の時のことを思い出します。神戸で被災した親戚や友人たちの多くが、「在日」がたくさん暮らす長田に住んでいました。結婚してから長田との繋がりができたのですが、朝鮮人密集地に暮らしながら、お互い、通称名を呼び名乗る同胞たちの姿に差別の歴史の重さを感じていました。しかし、親戚たちから出る言葉は、「中華料理は神戸が一番」、「パンも神戸が一番」といつも神戸を大絶賛です。そんな素晴らしい神戸が一瞬に破壊され、燃えてしまったのですから、途方に暮れる毎日でした。たまたま、帰省していた子どもを亡くしてしまった親。自分だけが助かり、親を亡くした子ども。どれだけ、年月が経過しても、「なぜ。どうして。」と、その死を忘れることはできません。残された家族や知人は、目の前の困難と闘いながら、生きて行かなければなりません。
先日、フリージャーナリストの西谷文和さんのお話を聞くことができました。九・一一事件後のアメリカはアフガンとイラクで「テロとの戦い」を展開し、一〇年目を迎えます。西谷さんはイラク、アフガンで取材を続けて「戦争は儲かる」ということと、核廃棄物で作られた劣化ウラン弾などによる、「内部被爆の恐ろしさ」を痛感したと語られていました。西谷さんが取材し、放映された映像には、癌に冒されている子どもや、先天的に肛門や眼球がないまま生まれてきた赤ちゃんの姿がありました。子どもを抱いたり、さすったりしている母親たちは、「たくさんの砲弾を受け続けた。原因は劣化ウラン弾にちがいない。」と悲しそうに答えていました。
チュニジア、エジプトから広がった中東革命も、独裁者からの解放を民衆の手で勝ち取りつつありますが、そこでも、アメリカに石油を供給する国の民主化は阻まれるのに、邪魔な独裁者は攻撃されるという、ダブルスタンダード(二重規範)が存在します。サウジアラビアの隣のバーレーンの映像では、デモをする市民に発砲する軍隊や、催涙弾で昏睡状態になった人が続々と運ばれてくる救急病院の様子が流されました。そして、リビアは、カダフィー軍や、NATO軍の砲撃により、破壊された無惨な姿のトリポリの街が映し出されていました。「一部の国や人の『利権』によって、弱い立場の人たちがいつも犠牲になる。そんな社会のままで良いのか、今回の震災や原発事故を教訓に、みんなで考えていきたい。」と、西谷さんは結ばれました。
六月二三日の「沖縄慰霊の日」には、学校で平和集会を行っています。子どもから、「本当に戦争はなくなるのか。平等な世界なんかつくれないのでは。」と問われました。この子たちが大人になったとき、日本は戦争と無縁でしょうか。教師は教え子を戦場に送らずにいられるのでしょうか。「日本は戦争なんか絶対にしない。」と誰もが信じていると思います。私も信じたいです。しかし、「戦争反対」という強い意志を持ち続け、働きかけをしていかないと、危うい将来です。
一六年前の震災から復興を成し遂げた人々の力を思い起こし、これから、まだまだ続くであろう、困難に立ち向かう準備をしていきたいと思います。
皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)
1957年大阪生まれ兵庫育ちの在日朝鮮人(朝鮮人は民族の総称)。
在日女性の集まり「ミリネ」(朝鮮人従軍慰安婦問題を考える会)代表。
「家族写真をめぐる私たちの歴史-在日朝鮮人、被差別部落、アイヌ、沖縄、外国人女性」責任編集。2016年、御茶の水書房刊。
小学校講師。
家族写真を使って、個人のルーツや歴史を知り合うワークを開催している。