公益財団法人とよなか国際交流協会

なんぢゃ・カンヂャ・言わせてもらえば

第104回 生まれ変わっても

皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)

PTAの広報誌から「生まれ変わったら何になりたいか」という質問を受け、返事に窮しました。子どもの頃は男に生まれ変わりたいと願い、成長するにつれ、日本人に生まれ変わりたいと思うようになりました。「在日」の女に生まれたくなかったという思いは自分を否定してしまいます。クジラになりたいとか、イルカになりたいとか書いてやり過ごそうかとも思ったのですが、そういうわけにもいきません。
 結婚差別を受けた先輩の女性は、今度生まれてくるのなら、日本人の普通の女の子に生まれたいと、つらい思い出を語ってくれました。後輩のお母さんから、腹の立つことばかりなので、生まれ変わるなら木になりたいと言われ、爆笑したこともあります。
この質問自体に違和感を覚えるのは私だけでしょうか。いろいろ考えて、結局、「生まれ変わっても今の自分で良いです」と返事を書きました。でも、こう思えるまでにはたくさんの時間と出会いが必要でした。「あるがままの自分」を良いと思えるまでの努力と葛藤は、それぞれ言い尽くせるものではありません。理不尽なことに遭遇すると、「何で自分だけが」と腹が立ちますが、いつまでも「かわいそうな自分」ではいられません。そんなときは気持ちの切り替えが必要ですね。
体を動かすと爽快な気分になります。嫌なことは汗になって流れていきます。怒るということはエネルギーが充満しているので、うまく放出しないと思わぬ失敗をしてしまいます。本を読み、映画やミュージカルを観て感動することも良い気分転換になります。1984年、炭鉱ストライキに揺れるイギリス北部の街で、バレエ・ダンサーを夢見る少年が、厳しい環境にもかかわらず、家族や地域の人たちの愛に支えられ夢を叶える「ビリー・エリオット、リトルダンサー」を観ました。正直、あまり期待していなかったのですが、主役をはじめ、子どもたちの演技が素晴らしく、驚きました。母を失った寂しさ、閉鎖目前の炭鉱でストライキの先頭に立つ、父や兄から求められる男らしさに辟易とする気持ちなどを、細やかに力強く表現していました。歌、踊り、迫力満点の演技に圧巻の2時間半でした。ビリーは何度も夢を諦めようとしますが、思いとどまります。その理由は踊っているときだけは、自分が解放されるからだと言います。舞台でビリーの人生を演じる側と、観る側が一緒に現実から解き放たれ、思わぬ力が湧き上がります。まだまだ自分は変容できると、疲れた心に言い聞かせ、出演者に大きな拍手を送りました。同時上演されている、ソウルのビリーにも会いにいきたいです。

皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)

1957年大阪生まれ兵庫育ちの在日朝鮮人(朝鮮人は民族の総称)。
在日女性の集まり「ミリネ」(朝鮮人従軍慰安婦問題を考える会)代表。
「家族写真をめぐる私たちの歴史-在日朝鮮人、被差別部落、アイヌ、沖縄、外国人女性」責任編集。2016年、御茶の水書房刊。
小学校講師。
家族写真を使って、個人のルーツや歴史を知り合うワークを開催している。