第51回 通訳は信頼関係。通訳者は命綱。
吉嶋かおり(よしじま かおり)
外国人が情報や状況を理解するために、日本語ではなく母語が必要な場合は多く、外国人支援の中でも大きな業務であり、目的でもあります。正しく情報が得られなければ、適切な判断が難しくなったり、利用できるはずの様々なサービスを受けられなくなったりします。
多言語相談サービスでは、多言語スタッフを配置し、これを担ってもらっています。多言語スタッフは通訳者ではありません。通訳者は、私の話を正確に通訳してもらうことが業務になりますが、多言語スタッフには、私の話を通訳しながら、相談員として対応してもらう、という役割を期待しています。相談者と多言語スタッフと私がチームで進めている、というような感じです。
相談内容がややこしかったりすると、私の話を母語で伝えるのも難しくなります。また特に、心理カウンセリング対応をしているときは、通訳を介して私のニュアンスを伝えてもらうのは、なかなか難しいものです。相談中、私は、私が言っていること、伝えたいことが、相談者に伝わっているかどうかを注意深く見ています。相談者の返答内容だけでなく、表情など、相談者の様子全てに注目していると、私の意図が伝わってなさそうだ…ということはすぐにわかります。そう思ったら、多言語スタッフに確認します。多言語スタッフも理解していないかもしれません。その場合は、多言語スタッフとまず話し合います。そうやって、三者のコミュニケーションがスムーズにいっているかどうかを、常に追いながら進めます。
Aさんは、別の機関で相談し、支援を受けなければならない手続きがあり、こちらから連絡して対応をお願いしました。通訳は先方が配置しました。その後、Aさんは私たちのところに来て、「もうあそこには行かない」と泣きながら訴えました。通訳者がAさんを個人的に非難するようなことを言ったり、別の相談者の状況について話したりしたそうです(守秘義務違反です!)。とても残念な出来事でした。その支援が受けられないとなると、他の手段は困難ですし、大きく方針を検討し直さなければなりませんでした。おそらく、支援者は通訳者に説明し、相談者を見ていなかったのでしょう。また、通訳を介しての支援に慣れていなかったのかもしれません。
母語支援が必要な外国人にとって、通訳者はたった一つの窓口になります。そこからしか、先が見えません。通訳者の役割と責任はとても大きなものです。しかし今の日本では、公共サービスとしての通訳者の養成や、何よりも、通訳業務への適切な支払いがありません。「母語なんだからできるだろう」と思っているのではないかと思うぐらい、安易なボランティアとして捉えているところが非常に多く見られます。
そして、通訳者の資質向上はもちろんですが、最も責任をとらなければならないのは、支援者(機関)です。在住外国人支援が全国的に求められている中、しっかりと取り組まなければならない問題だと思います。
(2019年8月号より)
吉嶋かおり(よしじま かおり)
外国人のための多言語相談サービス相談員。臨床心理士。2006年から担当しています。
どんな相談があるの?相談って何してるの?という声にお応えできるよう、わかりやすくお伝えできればと思ってコラムを書いています。