第28回 5年のまとめから見える今後の課題02 精神保健
吉嶋かおり(よしじま かおり)
前回に引き続き、外国人相談から見えてきた課題についてです。
外国人が、日本人と同じような支援を受けられなかったり、サービスを利用できないことは多く、協会ではそれをカバーすることを目標・目的に相談活動をしています。しかし、協会の相談サービスで対応するのが難しいものもあります。その一つは専門的な心理カウンセリングです。
様々な経緯の中で、心に深い傷を負ったり、気力をそがれていったりした相談者は少なくありませんでした。抑うつ的になり、何もする気が起きず、食事が作れないとか、部屋の片づけができなくて散らかり放題になったりしていました。夜眠りにくく、体がだるかったり、心に余裕が持てなくて、子どもにあたってしまったりなど、生活するのもやっとの毎日を送っている人がいました。
その背景には、夫からの暴力を受け、その後遺症のような状態がありました。暴力被害を受けた人は、その後長年にわたって、恐怖がよみがえったり、不安が強くなったり、抑うつ状態になるといった影響が出てくることがあります。暴力ではなくても、さまざまな不運や不幸が重なり、同様の状態になってる人もいました。そのような特異な出来事がなくても、外国人が慣れない環境で生活することのストレスは強く、日本で自分らしくいることが困難な状況に陥っているということもありました。
相談者は病院に行き、服薬を続けていますが、これまでの相談者のほぼ全員が、長期間薬を飲んでいても全く状態が改善されている兆しがありませんでした。
このような相談者には、専門的で治療的な、心理カウンセリングなどの対応が効果的な場合があります。また本人も、自分の母語で話をしたい、気持ちを受け止めてもらいたいと考えていました。しかし、外国人が母語でそのようなサービスを受けることは、現状ではほとんど不可能です。英語で対応している機関もありますが、在住外国人の多くは非英語圏の出身で、英語を理解していません。また経済的に困窮している人がほとんどで、高額なカウンセリング料を払い続けることもできません。日本人には、無料や安価の心理カウンセリングを受ける機会が多くあります。しかし外国人にはその機会はほとんどありません。
これは教育相談においても同じことが起きています。外国人の子ども、外国をルーツに持つ子どもが増えていて、それはつまり、「問題」行動を起こす子どもや、発達上の問題を抱えた子どもも出てくることになります。協会にもいくつかの相談がありました。しかし、子どもやその保護者が、きちんと理解できる教育相談や療育を受けられるところはほとんどありません。保護者は、子どもの問題が何かほとんど理解できないままでいたり、どう対応してよいかわからずに困ったりしています。
これはごく一例にすぎません。外国人が、少なくとも日本人と同様にサービスを利用できる機会をどう保障するか。前号でも書きましたが、協会一団体だけで取り組む課題としてとらえるのではなく、社会全体の問題として考えていくべきだと思います。
(2012年8月号より)
吉嶋かおり(よしじま かおり)
外国人のための多言語相談サービス相談員。臨床心理士。2006年から担当しています。
どんな相談があるの?相談って何してるの?という声にお応えできるよう、わかりやすくお伝えできればと思ってコラムを書いています。