2019年10月 少しだけ北の国から@福島
辻明典(つじあきのり)
少しだけ北の国から@福島(第19回)
先日、大阪や神戸から友人たちが訪ねてきてくれました。
みなさんを地元の海にご案内したのですが、巨大な壁のようにそびえ立つ堤防に、本当に驚いていました。(外からやってくる方のお話を聞くと、私も改めてその異様な風景に気づかされました)。
海岸沿いの堤防に作られた、手すりのない階段を登った先にあったのは、狭くなってしまった砂浜と、巨大なテトラポットの山。砂浜は、巨大な堤防とテトラポットの山とのあいだに挟まれている。 これは本当に異様な景色。
ここに立つと、ものすごい違和感が腹の底から湧き上がってくるのがわかります。砂浜に立っているはずなのに、海が全く見えない。圧倒的な人工物が作り出す圧迫感。自然をコントロールしようとする人間の傲慢さ。実はここは、大正時代まで潟(ラグーン)だったところなのです。近代化によって埋め立てられたこの地区は、津波の被害が大きかったところなのに・・・
テトラポットに波が打ちつけられるたびに、雷鳴のような音がして、なんだか海が人間に怒っているような気がしました。それは、僕が子供の頃に聞いたことがある音とは全然違う。それだけは、はっきりとわかりました。渚をつくってくれる波は、砂と海がさらさらと混じり合う、もっと優しい音を奏でていたはずなんです。
辻明典(つじあきのり)
協会事業(哲学カフェ、プロジェクト“さんかふぇ”等)に参加していた辻明典さんが、2013年度より故郷である福島県南相馬市に戻り、教員をしています。辻さんからの福島からの便りをどうぞ。