公益財団法人とよなか国際交流協会

リレーコラム(2015年度~)

2021年7月 이모저모通信(第9回)

皇甫康子(ふぁんぼかんじゃ)

「排除ベンチ」に抵抗するアートを!

 どこにも行けない、だれとも会えない、そんな休日は二年目だが、我慢しても事態は好転していない。
 そんな中、オンラインでの市民講座「梨の木ピースアカデミー」を受講しているが、なかなか面白い。現代アーティスト、いちむらみさこさんのお話を聴き、なるほどと気が付いたことがあった。いちむらさんは2003年から東京の公園で生活しながら、創作活動を続けている。テント村は男性がほとんどで、お互いに助け合って生きている。女性はというと、やはり身の危険を感じるのかなかなか姿が見えない。そんな女性たちが集えるカフェを開催し、絵を描いたり、かわいい刺繍を入れた生理用布ナプキンの制作もしたりしている。東京オリンピック開催準備の過程で、公園が複合施設になってしまったり、野宿者を入れないフェンスが作られたりしている。そのフェンスには多様性を認めるような壁画が描かれ話題になったそうだが、野宿者は排除する。雨露がしのげそうな空間には陽も差さないのに植物が障害物のように置かれている。公園のベンチも「美しいベンチ」として真ん中にも手すりが設置され、横たわることができない。野宿者たちしか気が付かない、「排除ベンチ」である。そこに表現、アートが加担している。夜になると危険だからと施錠する公園が増えているが、野宿者の追い出しが目的であることは明白だ。
 2020年11月16日、渋谷区のバス停で64歳の大林三左子さんがペットボトルと石が入った袋で頭を殴られ死亡した。犯人は地域の清掃ボランティアをしている46歳の男で「邪魔だった。痛い目をさせればいなくなると思った」と供述している。大勢の人たちがバス停の幅20センチ、真ん中に手すりがあるベンチに座って夜12時からバスの始発まで休んでいる大林さんの姿に気が付いていたが、声を掛ける人はいなかった。4年前からアパートの家賃を払えなくなり、生活用品が入ったスーツケースを持ち、試食試飲の宣伝販売の仕事をしていたが、殺される半年前からはコロナ禍で仕事がなくなり、炊き出しなどで命を繋いでいたようだ。亡くなったときの所持金は8円だった。
 郷里の母親や弟の迷惑にならないよう、生活保護も申請せず自力で何とか這い上がろうとしたが果たせなかった大林さんの最期に、「彼女は私だ」と自らの境遇を重ねる女性たちの声がSNSに上がった。12月には170人が集まり、追悼の集会が開かれた。
 誰かを守るためというが、排除されるのは力のない人たちだ。表現することで、いつも負ける状況を押し返したいと語る、いちむらさんの作品は凛々しく、温かい。

皇甫康子(ふぁんぼかんじゃ)

2018年2月号に最終回を迎えた連載「なんじゃ・カンジャ・言わせてもらえば」の執筆者、皇甫康子さんの新しいコラムがスタートします。皇甫さんの想いとメッセージがイモヂョモ(あれこれ)詰まったコラムをどうぞ。