公益財団法人とよなか国際交流協会

リレーコラム(2015年度~)

2021年11月 이모저모通信(第10回)

皇甫康子(ふぁんぼかんじゃ)

生きのびるために

 カナダの作家、デボラ・エリスの児童文学『生きのびるために(原題:The Breadwinner )』を映画化した長編アニメが2017年に制作され、日本での公開は2019年だった。原作が発刊された2002年はタリバン政権が崩壊した直後だった。
 タリバン政権下のカブールの道端で、11歳の少女が「翻訳ができます」と声を掛けている。母親が自分のために作ってくれた美しい衣装も、売らなくてはいけない。横に座っている父親は、気持ちが疲弊していく少女にアフガニスタンの物語を暗唱させる。
 元教師の父親はタリバンになった教え子に女に文字を教えていると密告され、刑務所に送られる。作家だった病弱な母、姉、幼い弟の生活を守り、父親を捜すため少女は髪を切り亡くなった兄の服を着て、街に出る。ドキドキしながら買い物をするが、女には売ってくれない店主も上機嫌で応対してくれる。男と一緒でなければ出歩けなかった街を自由に走り抜ける。同じ境遇の男装した友人にも出会い、励まされるが、数々の難題が少女を襲う。ようやくひん死の父親を捜しあてるが、カブールを脱出する母たちとは離ればなれになってしまう。月を見上げながら、それぞれが家族を思い映画は終わる。アフガニスタンの歴史やお話を少女は弟をなだめるとき、不安なとき、絶望しそうになったときに語る。穀物の種をすべて奪ったぞうに知恵と勇気と忍耐で挑んだ少年のお話は、少女の創作となりみんなを励ます。少年はぞうから種を奪い返し、村人はお祝いをして、歌い、踊り、食べた。その少年は、おもちゃの地雷で殺された少女の兄だった。「怒りでなく言葉を伝え。花は雷でなく雨で育つ」という最後の少女の言葉が心に沁みる。
 2021年8月15日、アフガニスタンからの米軍の撤退に伴い、再びタリバンが政権を握った。1977年に設立されたフェミニスト団体、RAWA(アフガニスタン女性革命協会)の40年以上の闘いを支援している清末愛砂さんのお話を聴いた。タリバン叩きのために「女性の人権を守る」という政治的利用が20年前と同じように今回も起こっているが、各国の女性たちが連帯の声を上げているのは力となる。RAWAはパキスタンの難民キャンプで孤児院や病院を作り、難民のケアーを行ってきた。多様な意見を出し合える社会をつくろうと、アフガニスタンに女性のための秘密の識字学校を開設している。タリバン政権が復活してすぐに、抗議デモを行っているのは清末さんの友人、知人であるRAWAのメンバーだったということだ。悲観する清末さんに、「私たちはすぐに世の中が変わるとは思っていない。この闘いは何十年も続くのだ」という力強い声が届く。小さな活動が点となり、拡散されることで線になる地道な活動が、声を出せる女性たちを育て、その女性たちと共に活動する男性をも育てている。自分たちの活動をないものにさせないため、命を賭けて記録してきた映像を観て、その活動のすごさを実感させられる。
 タリバン政権下の混乱の中でも、活動を再開させようとしているそうだ。何十年かかっても、抵抗する人間を育てていくという彼女たちの不屈の決意に圧倒されながら、明日への不信や諦めを洗い流した。

皇甫康子(ふぁんぼかんじゃ)

2018年2月号に最終回を迎えた連載「なんじゃ・カンジャ・言わせてもらえば」の執筆者、皇甫康子さんの新しいコラムがスタートします。皇甫さんの想いとメッセージがイモヂョモ(あれこれ)詰まったコラムをどうぞ。