2022年8月 少しだけ北の国から@福島(第27回)
辻明典(つじあきのり)
憤りを禁じ得ない。
2022年6月17日、最高裁判所は、東京電力福島第一原発事故を巡る国の責任を免じる判決を下した。東日本大震災の津波が、予測できた津波よりも巨大だったことを重く捉え、当時の技術や知見では「事故を防げなかった」と結論づけた。津波の危険を看過した国の不作為は不問に付された。
いつの時代も、国家は人間を守らない。土地を汚し、生業を奪い、大自然を破壊したとしても、誰も責任をとらない。そのうち、原発をテロから守るために、軍備を増強するとでも、言い始めそうだ。実際に、ウクライナのチョルノービリ原子力発電所が、ロシア軍によって占拠されるという事態も起こっている。これを根拠に、軍備を増強しようとの議論が始まっても、まったく驚くには当たらない。
戦禍を繰り返してはならない。越えてはいけない一線を踏み越えてしまうかのような空気が、醸成されている気がしてならない。どうも、戦争の尻尾が見えはじめているようだ。
私たちに必要なことは、理念を語ることなのだろうか。原子力発電所の存在を、防衛費高騰の根拠にしてはならない。いわんや、脱炭素を根拠に、清潔なエネルギーとうそぶいて、原子力発電所を動かしてもならない。
辻明典(つじあきのり)
協会事業(哲学カフェ、プロジェクト“さんかふぇ”等)に参加していた辻明典さんが、2013年度より故郷である福島県南相馬市に戻り、教員をしています。辻さんからの福島からの便りをどうぞ。